【天城越え】の表題を見ていると、20代の頃、観光で伊豆・天城峠に行ったことを懐かしく思い出した。
その頃の私は、川端康成の「伊豆の踊子」の気分で旅をしたような記憶が残っている。

松本清張の【天城越え】は時効を扱ったミステリ-小説である。
時効とは何かを、考えさせられる【天城越え】である。
月日の流れが過ぎても罪の重みは消すことは出来ないことを【天城越え】は物語っていると思う。
30数年前に殺人を犯した小野寺は、今では静岡で小さな印刷所を経営し静かに暮らしていた。
そこに、右足を引きずった年老いた田島と名乗る老人は県警の委託で過去の捜査資料を持って、その中に『天城山土工殺人事件も入っている。』印刷を依頼しに来た。
資料を読んで小野寺は愕然とした。激しく動揺し衝撃を受けた。
資料は、小野寺に嫌でも16歳の頃を思い出させた。
今頃になって30数年前のことを思い出させるとは、因縁としか言いようがない。
その『天城山土工殺人事件』を、小野寺自身が印刷をしなければならないとは!
下田で鍛冶屋を営む16歳の小野寺は大好きな母が、亡き父を裏切って母の情事を目撃してしまい、母が嫌になって、静岡にいる兄を頼っていこうと決め家を飛び出した。
小野寺少年は一人で天城越えの旅に出た。
天城のトンネルを通り抜けると、別な景色が広がっていた。小野寺少年は恐ろしく「他国」を感じた。
湯ヶ島まで来た時には、もう夕方近くになっていた。
最初に大きな風呂敷包みを背負った菓子屋に会った。
次に呉服屋に会った。
向こうから、一人の大男が歩いて来た。一目で他所者だと分った。
呉服屋が「あれは、土方だね。ああいうのは流れ者だから、気をつけなければいけない。」と言われた。
静岡に行く元気がだんだんとなくなった小野寺少年は、下田に引き返す決心をした。
するとその時、修善寺の方角から素足で若い美しい娘ハナと言う女に出会い小野寺少年は、顔も赤くなるほど気持ちが昂り、下田まで一諸に行くことに決めた。
ところが、道中ハナは一人の土工に出会うと無理やりに小野寺少年と別れた。
ハナは土工と歩き出した。
小野寺少年は気になって後を追うと草むらの中で情交を重ねている二人を目撃した。
その土工が殺された。
ハナは、土工と歩いているところを他のものに目撃されているし、ハナは土工から情交の後、貰ったお金も持っていた。
現場には九文半ほどの足跡も残っていた。ハナの足も九文半で容疑者として逮捕された。
警察の取調べで、ハナはお金は土工との関係をしてでのお金で、殺人は認めなかった。
ハナは証拠不十分で釈放されたが、ハナは殺しは頑として口を割らずにこの事件は迷宮入りになってしまった。
私はハナは殺しの真犯人を知っていると思った。
年老いた田島老人は30数年前のその時の刑事だった。
それから5日後、出来上がった印刷を取りに小野寺が経営している印刷所に年老いた田島老人はやって来た。
その時年老いた田島老人は「九文半の足跡を女性のものだと決めつけたのが間違いだった。
犯人は子供でした。」と語った。
そして、「どうしても犯人である子供の動機が分からない。」と言った。
《犯人は小野寺少年である。》
少年である彼はハナと土工の情交を見て、昔、母が男と情交を重ねているのを思い出し、又も愛する人を奪われたのかと思い激しい怒りを感じた。後は、無我夢中で殺してしまった。
刑事だった、老いた田島老人は執念で30数年ぶりに小野寺少年が《真犯人である!》ことが分かった。
年老いた田島老人はわざわざ静岡の印刷所に印刷を依頼しに来たのだった。
だが、『天城山土工殺人事件』は時効は15年であるし、30数年たってしまっているのでとっくに時効になってしまっていた。
でも、小野寺は『今の衝撃は死ぬまで時効にはならない!』と改めて時効と罪の重さを感じた。
私は、本を読んでいて最後は体が硬直するほどの衝撃と深いため息がでた。
時効とは、一体何なのだろう・・・・・・・
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