
【猫の事務所】は
「いじめ」を受けている主人公 《 カマ猫 》 の悲しい物語です。
今の現代に置き換えて会社などの、いじめ・パワハラなど、大人が読んでも色々と考えさせられる物語です。
軽便鉄道の停車場の近くに、猫の第六事務所のなかで起きたことです。
ここは、主に猫の歴史と地理を調べるところです。
事務長は大きな黒猫で、少しもうろくはしていましたが、眼などは中に銅線が幾重も張ってあるかのように実に立派です。
書記は四人、皆短い黒の繻子の服を着ています。
一番書記は白猫でした、
二番書記は虎猫でした、
三番書記は三毛猫でした、
四番書記はカマ猫でした、
カマ猫というのは生まれ付きではなく、夜かまどの中に入って眠る癖があるために、
いつでも身体が煤で汚く、殊に鼻と耳には真っ黒に炭がついていて、なんだか狸のような猫のことをいうのです。
ですから《 カマ猫 》は嫌われます。
けれどもこの事務所では、何せ事務長が黒猫なもんですから、
この《 カマ猫 》もあたりまえなら、幾ら勉強が出来ても、とても書記なんかには、なれないはずを、四十人の中から選びだされたのです。
さて、彼らはこの事務所ではどんな仕事をしているかというと、例えばお客様の猫が「わしは氷河鼠を食いにベ-リング地方に行きたいのだが、どこらが一番いいのだろう。」と質問があれば、事務長の指図の下で氷河鼠の産地や旅行についての注意や更に細かいことを、それぞれの書記の猫たちが原簿で調べるのです。
この四番書記の《 カマ猫 》は仕事はとてもよく出来るのですが、他の書記猫には酷く嫌われていたのです。
事務長のの黒猫は《 カマ猫 》を評値していましたし、《 カマ猫 》も他の書記猫達に好かれようと仕事を頑張ったり、優しくしたり、できる限りの努力をしましたが、他の書記猫達は《 カマ猫 》を受け入れようとはしませんでした。

~寒さに弱く、いつも煤で真黒に汚れている《 カマ猫 》を、他の書記猫達は自分と同じ仲間の猫としてみることが出来なかったのではないかと思います。~
《 カマ猫 》は当たり前の猫になろうと何辺も窓の外に寝て見ましたが、どうしても夜中に寒くってくしゃみが出てたまらないので、やっぱしかまどの中に入るのでした。
《 カマ猫 》は生まれ付き皮膚が薄いためで「やっぱし僕が悪いんだ、仕方ないなぁ」と涙を眼一杯ためるのです。
けれども事務長さんがあんなに親切にして下さる、それに《 カマ猫 》のみんながあんなに僕の事務所に居るのを名誉に思って喜ぶのだ、どんなに辛くても僕は辞めないぞ、きっとこらえるぞと、泣きながら握りこぶしを握りました。
~読んでいくうちに、内容はやさしいですが、かなり残酷です。差別が酷すぎて、これでは《 カマ猫 》は毎日が地獄です。~
ところが、その事務長も、あてにならなくなりました。
ある時《 カマ猫 》は運悪く風邪をひいてしまい、足の付け根を腫らしてしまい一日休んでしまいました。
その間、三人の書記猫達が《 カマ猫 》は、事務長の座を狙っているといい加減なことを言って事務長を信じ込ませてしまいました。
次の日、風邪が治ったので喜んで《 カマ猫 》はごうごう風の吹く中事務所に行きました。
すると、大切な《 カマ猫 》の原簿が机の上からなくなって、他の三人の書記達の机の上に分けてありました。
そして出勤して来た三人の書記達も《 カマ猫 》が挨拶をしても知らんぷりで無視をしてしまいます。
頼りになる事務長の黒猫さえも《 カマ猫 》を無視してしまいます。
仕事が始まっても、《 カマ猫 》は自分の原簿が無いことも声が出ず、黙って下を向き、持ってきたお弁当も食べず
とうとう昼過ぎの一時頃からシクシク泣き出してしまいました。
そして晩方三時間ほど泣いたりやめたり泣き出したりしたのです。
それでも、みんなは知らんふりで面白そうに仕事をしていました。
その時です。
猫どもは気が付きませんでしたが、事務長の後ろの窓の向こうにいかめしい獅子の金いろの頭が見えました。
獅子は不審そうに、しばらく中を見てましたがいきなり戸口を叩いて入って来ました。
獅子が大きな確りした声で言いました。
『お前達は何をしているか。そんなことで地理も歴史も要った話ではない。やめてしまえ。えい。解散を命ずる。』
こうして事務所は廃止になりました。
《僕は半分獅子に同感です。》
~物語の結びの一文、《僕は半分獅子に同感です。》は、《 カマ猫 》ではなく宮沢賢治だと思います。
宮沢賢治は、猫を通して人間としての道徳心を、【猫の事務所】を通して私達に伝えたかったのだと思います。
【猫の事務所】は本当に深く考えさせられる名作の本だと私は思いました。~
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