

【恋を恋する人】
わたしはくちびるにべにをぬって、
あたらしい白樺の幹に接吻した、
よしんば私が美男であらうとも、
私の胸にはごむまりのやうな乳房がない、
私の皮膚からはきめのこまかい粉おしろいのにほひがしない、
わたしはしなびきつた薄命男だ、
ああ、なんといふいぢらしい男だ、
けふのかぐはしい初夏の野原で、
きらきらする木立の中で、
手には空色の手ぶくろをすっぽりとはめてみた。
腰にはこるせっとのやうなものをはめてみた、
襟には襟おしろいのやうなものをぬりつけた、
かうしてひつそりとしなをつくりながら、
わたしは娘たちのするやうに、
こころもちくびをかしげて、

あたらしい白樺の幹に接吻した、
くちびるにばらいろのべにをぬつて、
まつしろの高い樹木にすがりついた。

《私の感想》
~【恋を恋する人】は、
~萩原朔太郎の心を描いた詩だと思います。~
~萩原朔太郎は男性であって、心は女性。~
~同性愛の傾向のある人だと思います。~
~あたらしい白樺の幹に接吻をした。~
~これは、無垢で汚れなき女性を求め、
~また、自分に置き換えていると思います。~
~萩原朔太郎自身白樺に憧れているのではないでしょうか。~

萩原朔太郎(はぎわら さくたろう)
生年月日:1886年11月1日
大正時代:昭和時代の詩人
1942年没
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