
~島崎藤村(しまざきとうそん)詩人・小説家です。~
~本名は島崎春樹・長野県生まれです。~
~明治二十五年(1892年)「女学雑誌」に連載された
北村透谷の評論「獣世詩家と女性」に感動し、
翌年「文学界」に参加します。~
~同誌を中心にして、北村透谷らとともに浪漫派詩人として
活躍します。~
~北村透谷が島崎藤村に与えた影響は計り知れません。~
~明治三十年、処女詩集『若菜集』を刊行しました。~
~近代日本浪漫主義の代表詩人としての第一歩を踏み出しました。~

〈初恋〉
まだあげ初(そ)めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛(はなぐし)の
花にある君と思ひけり
やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅(うすぐれない)の秋の実に
人こひ初(そ)めしはじめなり
わがこころなきためいきの
その前髪の毛にかかるとき
たのしき恋の盃(さかずき)を
君が情(なさけ)に酌みしかな
林檎畑の樹(こ)の下(した)に
おのづからなる細道は
誰(た)が踏みそめしかたみぞと
問ひたまふこそこひしけれ

《現代語訳》
〈初恋〉

まだあげたばかりの君の前髪が
リンゴの木の下に見えた時
前髪にさした花櫛の
花のように美しい女性だと思った

優しく白い手をのばして
リンゴを僕にくれたこと
それは薄紅の秋の実
僕は初めて恋を覚えた
思わずもらしたため息が
君の髪の毛にかかったとき
恋に酔いしれる楽しさを
君のおかげで知ることができた

リンゴ畑の樹の下に
自然とできた細道は
誰が通って出来たかと
尋ねる君が愛おしい

《私の感想》
~(初恋)の甘くときめく気持ち~
~男女の若々しい清々しい気持ちが伝わってきます。~
~読み返しますと、初恋と、色っぽい詩だと感じてしまいます。~
~「まだあげ初(そ)めし前髪の」フレ-ズが好きです。~
~「日本髪を結い始めたばかりの前髪」という意味です。~
~この頃の少女は12歳から13歳くらいで髪を結う習慣がありました。~
~リンゴ(林檎)がポイントになっています。~
~リンゴは、若さ、愛にもちいることが多いものです。~
~(初恋)は,おおらかな、自由な恋心
を歌っている詩だと思います。~

島崎藤村(1872~1943)
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