
《わたしの、読書感想》
【にんじん】この小説を、はじめて読んだのは小学5年生の頃だったと思います。余りに、酷く虐待のように感じて最後まで読めませんでした。
今改めて、【にんじん】の解説を読み、幼少年時代は、母親から愛されず、母親を愛することも出来ないという、不幸な家庭環境でした。
これが、のちに名作【にんじん】の題材になったということが分かりました。家庭的には、恵まれなかったルナ-ルですが、勉強は非常に良く出来ました。
3人兄弟の末っ子【にんじん】の上手くいかない日常を描いた作品です。

【にんじん】の色の髪の少年は、ソバカスが多くって、おまけに根性までが、ひねくれているものだと言う。
そんな、あだ名を自分の子どもにつける母親。それが、平気で通用している一家。
ちょっと、汚い話ですが【にんじん】は他の子どもたちが、心も体も清めて聖体を拝受するという年に汚いままでした。
ある晩、囲いの前で、ある距離を置いてちゃんとかがみ込んでいる夢を見ました。そして、何も知らずにぐっすり眠ったまま、シ-ツの中にやってしまったのでした。
【にんじん】は、目を覚ましました。自分の前に囲いがないので、驚いたことといったら。

ルピックのおかみさんは、「かっ」とするのを押さえ、寛大に、母親らしく始末してやりました。そして朝がきても【にんじん】は甘えっ子のように、ベットで食事をとらせてもらいました。ベットに念入りに作られたスープが運ばれてきました。
ルピックのおかみさんは、その中に木のへらでほんの少しだけ、あるものを落としたのでした。

枕もとでは、兄さんのフェリックスと姉さんのエルネスチーヌが、面白そうに【にんじん】を観察しています。
ルピックのおかみさんは、ゆっくり、ゆっくり最後のひとさじをを救いあげ、それから、【にんじん】の大きく開けた口の中にぐっと喉の奥まで押し込みます。こうしておいて、ばかにしたように、気持ちわるそうに【にんじん】に言います。
「あ-あ、汚い子。夕べの、あれを、おまえ食べたんだよ。夕べのさ。」「じゃないかと思ってた。」と【にんじん】はけろっとして言います。【にんじん】は、こういうことに慣れっこになっていました。慣れてしまうと、おしまいには、もう、可笑しくも何ともなくなるものでした。

【にんじん】と、名づけ親のおじいさんとの会話も興味深いです。
名づけ親のおじいさんは、不愛想で孤独で釣りをするか、ぶどう畑で過ごすかして暮らしている老人です。人間嫌いで一諸にいて我慢出来るのは【にんじん】くらいなものです。
【にんじん】は、おじいさんといると母親から離れて寝られるのが何よりもです。
二人は、ミミズをとりに【にんじん】はカンテラを持ち、おじいさんは湿った土が半分入っているブリキ缶を持って出かけました。
一日中、雨が降ったときは、ミミズがたくさんとれます。
【にんじん】は、「ぼく、ミミズを取り逃がしちまうな。やつらの汚い唾で、指がよごれるしさ。」
おじいさんは「この世で一番綺麗、なものだ。土しか食わんしな。つぶしてみても、吐くのは土だけだ。わしだったら、ミミズを食えといわれれば、食ってもいい。」
【にんじん】は、「ぼくのぶん、おじいさんにあげるよ。食べてみたら。」おじいさんは、「小さいやつなら生で食うな。たとえば、プラムについてるようなやつならな。」
【にんじん】は「だから、家の人に嫌われるんだよ。特に母さんにね。母さん、おじいさんのことを考えたとたん、胸がむかむかするんだって。ぼくはさ。おじいさんは気難しくないし、ぼくたち気が合うんだもの。」
【にんじん】はプラムの木の枝を、引き寄せるとプラムを何個か取りました。いいものは自分のために取って置き、虫の食ったのをおじいさんに渡します。
おじいさんは、種の入ったまままるごと一気に飲み込みます。「これは、最高にうまい。」おじいさんは、言います。

【にんじん】にとっては、何よりも家族から、愛されたいと願っているのですが、嫌われているおじいさんと、自分は仲良しということは、同族になります。【にんじん】は、諦めに似た気持ちになったと思います。
どの、場面でも、【にんじん】の目を通しての世界を描いています。
姉さんのエルネスチーヌは婚約者と散歩することを、ルピックのおかみさんは許しましたが【にんじん】に見張らせることにしました。犬のような走り方で【にんじん】がちょっとぼんやりスピ-ドを落とすと、いやおうなしに、こっそりキスの音が聞こえてきます。
【にんじん】は何だかいらいらしてきました。村の十字架の前に来た時、帽子を地面に投げつけ、足で踏んづけると、叫びました。
「誰も、ぼくを愛してくれないよ、ぼくのことなんか!」と、ほとんど同時に、地獄耳のルピックのおかみさんが、塀の向こうにぬっと顏をだしました。
唇に怖ろしい笑いを浮かべています。【にんじん】は、夢中で言い添えました。
「母さんだけはべつだよ!」
これで【にんじん】は締めくくっています。
【にんじん】は、母親の無神経さが原因しているように思います。母親は、他を理解せず、理解しようともせず、自分を全面に出す無神経さ。我が子【にんじん】を、外側からだけ見て判断する無神経さ。母親の(いじめ)の対象になっている【にんじん】は、多少屈折してはいても、いたずらで、野蛮で、したたかで、子どもの原型のようです。自分で自分の環境を打開しようとし、いじめの被害から自分を守る方法を考えだすことは、読んでいても凄いと思います。
実の子をいじめぬく、という異常な母と子の関係になっていますが、父親のルピック氏の存在も大きいです。

ルピック氏は、【にんじん】に対して無関心に見える態度を示しますが、内心では【にんじん】を愛しているが、不器用なため行動に移すことができません。
ルピック氏と【にんじん】との会話
「あきらめろ、強くなれ。 二十歳になって自分で自分のことが出来るようになるまでな。そうすれば自由になって、わしたち家族と縁を切って、家をかえることも出来るんだよ。性格と気質は変わらんがな。それまでは、上からものを、見るようにしろ。感情は殺すんだ。そして、ほかのものを観察してみろ。おまえの一番近くのものたちもな。面白いぞ。気が晴れるような意外なことが見えることは、確かだぞ。」
【ニンジン】は、「どんな運命でも、ぼくのよりはましじゃないかな。ぼくには母さんがいる。その母さんがぼくを、愛してくれないし、ぼくも母さんを愛しちゃいない。」
「で、わしは、その母さんを愛してるとでも思ってるのか。」ルピック氏は溜まりかねて、ぶっきら棒に言いました。
【ニンジン】は一瞬言、葉につまりました。
わたしは、ルピック氏の【にんじん】に対する深い愛情を、感じてしまいます。

ジュ-ル・ルナ-ル
1864年、フランスのシャーロンに生まれる。

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