【すぐしぬんだから】内館牧子を、読んだ感想!(中編)

人は見た目が一番。若さを磨け、老化に磨きをかけてどうする、人は中身っていうやつほど中身がない、忍ハナさんは、的確すぎて凄すぎです。
許される範囲で、自分磨きをやることは生きる気力につながると思います。

《 あらすじ 》

翌朝、遅めの朝ごはんを、食べていると、雪男から電話がきました。
「ちょっと来てくれる?急いでいるんだけど」
店に続くリビングには、やはり呼び出されたという苺がお茶を飲んでいました。
珍しいことに由美までいます。
雪男が風呂敷包みを持って入って来ました。
「俺がこの店を継いだ時、親父から渡されてろくに見ないで金庫に入れといたんだよ。だけど、親父が死んだから一度は見といた方がいいと思ってさ。昨日の夜、箱を開けたら・・・・・親父の遺言書」

ハナは、遺言書の類は一切書かないと岩造は言っていたのに裏でこっそり書くほど私が恐かったのかと思ってしまいました。
家裁から出廷の連絡が来たのは、三週間ほどたってからでした。

実印で封をされた遺言書を持った雪男、ハナ、苺の三人の相続人は出廷しました。
家裁の一室に通され、裁判官は封を開けました。
裁判官は、第七条に進みました。
「第七条 次の者は、遺言者岩造と森薫(昭和24年5月10日生まれ)との間の子である」
裁判官は事務的に読み上げました。
筆頭者 森薫
男   森岩太郎いわたろう(昭和56年10月15日生)
右記森岩太郎は、成人した後も認知を請求しない。その旨の覚書は別添」
ハナは森薫は岩造の愛人だったのかということは、葬儀に来たイケメンの三十代とやらは、岩太郎に違いないと思いました。
岩造は愛人の家に行く途中で転んだのだ。間違いない。すべてがピシャリとつながりました。
裁判官はこちらの思いなど関係なく、事務的に第8条を読み上げました。
「第8条 『平気で生きて居る』一点を遺贈する。これは森薫本人の希望によるところである」

裁判官はすべて読み上げ終わると、淡々と
「本日はこれにて手続きを完了いたします。ご苦労様でした」
その夜、雪男宅に集まり、検忍された遺言書をもう一度読み直しました。
誰もが動けませんでした。
由美から事情を聞いたいづみも、無言で座っていました。
ハナは岩造に愛人がいたこと。その愛人は六十八歳で、愛人との間に子までなしている。その子が三十六歳になる。これは本当の出来事なのだろうか。
ハナは貧血を起こしたときのように、目の前に暗いもやがかかりました。
雪男が、突然口を開きました。
「俺、何であっちの息子の名前が『岩太郎』なんだよ。親父の岩造から一文字取って、あげく、長男を表す『太郎』だ。岩造の長男って意味だよ。普通は俺につける名前だろうよ」
ハナは雪男のために、ハナの思いを言うしかありませんでした。
「パパは妻の私を軽く考えてたんだよ。妾(めかけ)との間に出来た子にそういう名前をつけたのはその証拠。妻の問題なのに雪男にイヤな思いをさせて」
雪男は立ち上がりリビングから出て行きました。
ハナは四十年近く裏切られていたことより、雪男が可哀想でした。
雪男がノートパソコンを手に、戻って来ました。

「森薫の正体は、緑の森内科クリニック。院長のプロフイールも出ているよ」
ハナは画面をのぞいてみました。
こんなご立派な女を妾にし、岩造は私をどう見ていたのだろうと、また思いました。

ハナは、岩造の追悼個展に使うためにとっておいた折り紙の箱を引き出しわしずかみに引きちぎりました。
余りの多さに四十五リットルのゴミ袋に入れ、水を浴びせ水を吸ってクタクタになるとゴミ袋を踏んでたまった水を出し一丁あがりです。

これを、三回も繰り返しさすがに疲れてしまいました。
その夜、明け方まで寝つけず、煮えたぎった油を飲まされた夫だというのに、いいところが過(よぎ)ります。
それから、一週間がたち買い物をしてマンションに戻ると、掛け軸が目に入りました。
早いところ、これを妾に送りつけなければ。
雪男に頼んで送ることにしました。
数日後の夕方、苺が大きな紙袋を抱えてやって来ました。
「ロンドンのマリ子(娘)が夫婦でスコットランドに旅行して、みんなに土産だって。私と由美さんといづみにはマフラ-、ママだけはセータ-だよ。ほら」
アイボリーホワイトの、それはすてきなセーターでした。
私を見舞ってるなと、思いました。
苺と雪男の店に行きハナは、
「妾から掛け軸届いたって連絡あった?」
雪男は、
「もう、一週間近くたつよな。俺も毎日気にしてんだけどさ」

由美がギョーザを焼きいずみは、早くも酒やグラスをテーブルに並べていました。
一番の肴は妾です。

みんな、口をきわめて悪態をつきます。
その時、ドアチャイムが鳴りました。
出て行ったいづみがなんだか顏が上気して戻って来ました。

「森岩太郎」
一瞬、部屋が静まりました。
苺が立ち上がり
「ちょうど母も来ておりますので、どうぞお上がり下さい」
苺の言い方は穏やかだが、有無を言わせぬ強さがありました。
やがて、苺に続いて岩太郎が入ってきました。
身長は雪男より高く、百八十センチは越えて精悍(せいかん)な色黒で、目鼻が整っており、濃紺のスーツが気映えしています。
ハナは腹違いとはいえ、どこから見ても雪男の弟には見えないと思いました。
ハナは優しく促(うなが)し
「まずはお父様にお線香をあげてくださいな」
「え・・・・・」
間違いなく、岩太郎は息を飲みました。
いや苺も雪男夫婦もいづみもでした。

岩太郎はリビングの一角にある仏壇の前に正座し、手を合わせました。
岩太郎は、
「今日までご連絡ができず、申し訳ございませんでした。母が学会で韓国に行っておりまして昨夜帰宅致しました。包みを開けましたら、お手紙と掛け軸が出て来て大変驚いたそうです。私に電話があり至急お返しにあがってほしいと頼まれました。」
岩太郎は何を聞かれても真摯(しんし)に答えていましたが、そろそろ切り上げたかったのだろう。掛け軸の風呂敷包みを、両手で私に押し出しました。
「大切なものを、申し訳ございませんでした」
苺が、
「いえ、お持ち帰り下・・・・・」
と、言いかけた時、ハナが言葉を奪いました。
「わざわざお届下さったのに、持ち帰っては岩太郎さんがお困りでしょう。子どもの使いみたいですものねぇ」
冗談めかした笑顔を作りました。
ハナは苺を笑顔で制し
「お預かりします」と、風呂敷を解き、畳んで返しました。
岩太郎は安堵したようにそれを受け取ると、ハナに深く頭を下げました。
岩太郎が帰るなり、苺が掛け軸の箱を指ではじきました。
「どうすんのよ、これ」
「妾本人に突っ返す」
四人が同時に「ええーッ」声をあげました。
「パパは掛け軸は自分で手に入れたって、これもウソだったんだよ。そこまで女房をバカにしていたご亭主様だ。そいつが惚れ込んだ妾を見に行くよ。当たり前だろ」
妾は妻のものを盗み「本妻のご家庭には迷惑はかけられない」だの「認知はいらない」だのとご立派なことをほざこうが、窃盗犯で手くせが悪いだけの話だとハナは思いナマの岩太郎を見て腹を決めました。
このままでは引き下がらない。
世に「不倫」といわれるものはフェアではない。

「俺も一諸に行く」
雪男が静かに言いました。

《 わたしの感想 》

ハナさんに引かれるのは、自分の考え方が確立されているところです。
年齢を取れば取るほどすべてにおいて緩くなってしまいます。
どうしても、楽な方へ楽な方へといってしまいます。
チヤレンジする意識で何事にも挑戦だと感じてしまいました。

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