室生犀星(むろう さいせい)【昨日いらつしつて下さい】より、読んだ感想!

【昨日いらつしつて下さい】

きのふ いらつしつてください。

きのふの今ごろいらつしてください。

そして昨日の顔にお逢(あ)ひください、

わたくしは何時(いつ)も昨日の中にいますから。

きのふのいまごろなら、

あなたは何でもお出来になつた筈(はず)です。

けれども行停(ゆきどま)りになつたけふも

あすもあさつても

あなたにはもう何も用意してはございません。

どうぞ きのふに逆戻りしてください。

きのふいらつしつてください。

昨日へのみちはご存じの筈(はず)です、

昨日の中でどうどう廻り(めぐ)りなさいませ。

その突き当りに立つていらつしやい。

突き当りが開くまで立つていてください。

頑張れるものなら頑張って立つてください。

《私の感想》

室生犀星(むろう さいせい)は、

婚外として生まれ、自分の両親の顔を知らずに生まれきて

直ぐに養子にだされたことで、室生犀星の文学には、

生い立ちが、かなり影響を受けていると思いました。

【昨日いらつしつて下さい】

詩集を読むと切なく、悲しく、何故か喪失したような訳の分からない感じがします。

あすもあさつても

あなたにはもう何も用意してはございません。

どうぞ きのふに逆戻りしてください。

きのふいらつしつてください。

何もかもが、昨日、すべてが終わってしまった、人の世のはかなさ、

でも、

突き当りが開くまで立つていてください。

頑張れるものなら頑張って立つてください。

この言葉からこの、女性は意志の強い人だと思います。

ただ、

そして昨日の顔にお逢(あ)ひください、

わたくしは何時(いつ)も昨日の中にいますから。

昨日の中にいますから、と言われても出来もしないし、

戻ることも出来ない、常識では到底ありえないこと。

でも、何故か、昨日と言う節回しに、惹かれてしまう自分がいます。

  

室井犀星(1889~1962)

詩集【昨日いらつしつて下さい】が刊行されたのは、

1959年(昭和34年) 室井犀星70歳の時です。

70歳にして、感性、感受性も、

何かに接して引き出す能力はもの凄いと思います。

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