

~大衆文芸の戯曲、長谷川伸の
【一本刀土俵入】を、昔、お芝居で鑑賞しました。~
~本を読んいでますと、お芝居の場面と重なり
懐かしく場面場面場面を、思い出しました。~
~主人公
駒形茂兵衛(こまがたもへえ)と、お蔦(おつた)の心意気
歳を重ねた分、理解出来、(情)と(情け)を改めていいものだと思いました。~
~お芝居で駒形茂兵衛(こまがた もへえ)が、
お芝居の幕切れで言うセリフ~
「お行きなさんせ、早いところで、・・・
仲良く丈夫でおくらしなさんせ。・・・
お蔦(おつた)さん、棒切れを振り廻して
する茂兵衛のこれが、十年前に、櫛かんざし、
巾着(きんちゃく)ぐるみ、意見をもらった姐さんに、
せめて見て貰う駒形の、しがねえ姿の、
土俵入でござんす。」
~忘れられない名セリフです。~
~人情ものは、心を揺さぶります。|~

《あらすじ》
江戸幕府第十一代将軍・徳川家斉の時代、
水戸街道の取手の、宿場町の裏通りにある茶屋旅籠(はたご)で、
我孫子屋(あびこや)の店頭(みせさき)は、
今が閑散(ひま)な潮時外れであります。
それは秋の日の午後のこと。

我孫子屋の二階の窓にもたれて、あばずれた様子の酌婦お蔦(おつた)が
酔いをさましています。
そこへ空腹でふらふらしながら六尺六寸(約2メートル)、
巨躯の、取り的の茂兵衛(もへえ)が通りかかります。
茂兵衛(もへえ)は、波門された相撲の親方のところへ
もう一度、弟子入りしようと
駒形村(上州(じょうしゅう)瀬田郡(せたごおり)前橋(二里)から
出てきたのですが、すでに無一文。

からんできた、やくざの船戸の弥八(ふなどのやはち)を、
頭突きをくらわせて追っ払うてやったのがきっかけとなり、
茂兵衛(もへえ)はお蔦(おつた)に問われるままに、身の上を語ります。
実家も焼けてしまい、天涯孤独な身の上の茂兵衛(もへえ)は、
立派な横綱になって、故郷の母親の墓の前で土俵入の姿が見せたいという夢を
あきらめきられず、飲まず食わずの旅をつづけて
なんとか又入門をゆるしてもらおうと、江戸へ向かっていると言うのです。

母親想いの、純情一途な茂兵衛(もへえ)の話に心を、うたれたお蔦(おつた)は、
故郷越中八尾(やつお)富山県の母親を想って、お原節(おわらぶし)を口ずさむ。
そしてお蔦(おつた)は、持っている、
有り金、全部と、櫛(くし)かんざしを、髪からとり、
扱帯(しごき)に結びつけて二階から垂らします。
立派な横綱になるようにと、茂兵衛(もへえ)を励まします。
茂兵衛(もへえ)はこの親切を生涯忘れないと誓います。

お蔦(おつた)のおかげで、食べ物を手に入れることが出来た茂兵衛(もへえ)だが
ひと足ちがいで渡り舟にのり遅れてしまいます。
そこへ後追ってきた、船戸の弥八(ふなどのやはち)と仲間が襲ってきます。
空腹ではなくなった茂兵衛(もへえ)は川の中にへ投げ込んで、やっけてしまいます。
十年後、渡世人となった茂兵衛(もへえ)は
我孫子屋(あびこや)のお蔦(おつた)のことを尋ねて、
布施の川べりにやって来ますが、ヤクザ相手にイカサマ賭博をやっと、
船印彫辰三郎(だしぼりたつさぶろう)に間違われて、
博労の親方・波一儀十(なみいちぎじゅう)の子分たちに打ちかかれます。
実は、船印彫辰三郎(だしぼりたつさぶろう)は、
お蔦(おつた)の夫だった。
今では、飴売りをして娘のお君(おきみ)と、
ほそぼそとだがまとに暮らしている、お蔦(おつた)です。
そこへ、博労の親方・波一儀十(なみいちぎじゅう)と、
子分たちが、船印彫辰三郎(だしぼりたつさぶろう)を探して乗り込んできたのです。
お蔦は(おつた)は、何年も行方不明知れずだった。
船印彫辰三郎(だしぼりたつさぶろう)がまだ生きていて、追われる身だと知ります。
夜更けに船印彫辰三郎(だしぼりたつさぶろう)が戻ってきて、
親子は再会を喜び合います。
船印彫辰三郎(だしぼりたつさぶろう)は、少しでも金を持って帰ろうとして
イカサマに手を出したことをとても悔やみます。
そんなところへ、お君(おきみ)の歌う(小原節)にひかれるように
茂兵衛(もへえ)が訪ねてきます。
そして、十年前の恩返しにと金を渡すが、お蔦(おつた)は茂兵衛(もへえ)を
覚えていません。

追手が、この家を囲んでいることに気づいた茂兵衛(もへえ)は
お蔦(おつた)家族をかばって、博徒たちを、たたきのめします。
その姿を見て、お蔦(おつた)は、十年前のおなかをすかせていた取り的の記憶が
鮮やかに蘇りました。
お蔦(おつた)親子は、十年前のことを忘れずに恩返をしに、きてくれた
駒形茂兵衛(こまがたもへえ)に感謝をして、親子三人お蔦(つた)の故郷へと
旅立って行きます。
長谷川伸(1884~1963)
【一本刀土俵入】は、【瞼の母】の
翌年昭和6年(1931年)に中央公論誌に発表された二幕五場の戯曲。
主人公・駒形茂兵衛(こまがたもへえ)に
酌婦・我孫子屋のお蔦(おつた)が二階から財布を投げてやるシーンは
名場面として人気が高く、この作品は、タイトルをいわずとも、
(お鷹、茂兵衛)で通るほど広く知れわたった。
長谷川伸の作品のなかでは【瞼の母】とならんで、最も多くの人々に長きにわたって
愛されている作品です。

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