

【洗面器】
(僕は長年のあひだ、洗面器といふうつはは、
僕たちが顔や手を洗ふのに湯、水を入れるもの
ばかリ思つてゐた。
ところが、ジヤワ人たちは、それに羊(カンピン)や
魚(イカン)や、鶏、果実などを煮込んだカレ-汁を
なみなみとたたえて、花咲く合歓木(ねむぼく)の木陰(こかげ)で
お客待ってゐるし、その同じ洗面器にまたがって広東(カントン)の
女たちは、嫖客(ひょう)の目の前で不浄(ふじょう)をきよめ、
しゃぼりしゃぼりとさびしい音を立てて尿をする。)

【洗面器】
洗面器のなかの
さびしい音よ。
くれてゆく岬(タンジヨン)の
雨の碇泊(とまり)。
ゆれて、
傾いて、
疲れたこころに
いつまでもはなれぬひびきよ。
人の生のつづくかぎり
耳よ。おぬしは聴くべし。
洗面器のなかの
音のさびしさを。

《私の感想》
~中学生の頃、何気なく【洗面器】を読みました。~
~読んでみて、何とも言えぬ複雑な寂しさを感じました。~
~寂しさと同時に強烈なインパクトも心に残りました。~~
~今改めて読み、金子光春の人物像が知りたくなり調べました~
~自由奔放で、個人主義でありながら、社会主常識や規律に
~左右されない強烈な金子光春~
~戦時かでも、怖いもの知らずの(反骨詩人)でした~。
~金子光春は女性に対しても好色であり詩に謡いあげ隠すことをしませんでした。~
~そして(エロスの世界)が誕生しました。~
~現実世界では自由奔放な交情関係がゆえに
~妻や愛人との間で壮絶な愛憎が展開されました。~
~金子光春は純真無垢(じゅんしんむく)の(自然人)だったと思います。~
~只、ひたすら感性に忠実に生きることが金子光春の生き方。~
~戦争のなかでも、反戦を訴え(反骨詩人)思いのこもった
~詩集もだしました。~
~戦争とはいかに、人間を人間として扱わなくなってしまうのか~
~戦争だけは、ぜったいにやってはいけないものだと
~痛感しました。~

洗面器のなかの
音のさびしさを。
~日本も戦争の時は、洗面器をどのように扱かっていたかは
~分からないものだと思いました。~
洗面器のなかの
音のさびしさを。
~金子光春は、音のさびしさを、自分に置き換えて聴いていたのでは
~ないかと思います。~

金子光春(1895~1975)
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