

【冬と銀河ステ-ション】
そらにはちりのやうに小鳥がとび
かげろふや青いギルシヤ文字は
せはしく野はらの雪に燃えます。
パツセン大街道のひのきからは
凍(こほ)つたしづくが燦々(さんさん)と降り
銀河ステ-ションの遠方シグナルも
けさはまつ赤(か)に澱(よど)んでゐます
川はどんどん氷(ザエ)を流してゐるのに
みんなは生(なま)ゴムの長靴(ながぐつ)をはき
狐(きつね)や犬の毛皮を着て
陶器(たうき)の露店(ろてん)をひやかしたり
ぶらさがつた章魚(たこ)を品さだめしたりする
あのにぎやかな土沢の冬の市日(いちび)です
(はんの木とまばゆい雲のアルコほる
あすこにやどりぎの黄金のゴールが
さめざめとしてひかつてもいい)
あゝJosef Pasternackの指揮する
この冬の銀河軽便鉄道は
幾重(いくへ)のあえかな氷をくぐり
(でんしんばしらの赤い碍子(がいし)と松の森)
にせものの金メタルをぶらさげて
茶いろの瞳(ひとみ)をりんと張り
つめたく青らむ天椀(てんわん)の下
うららかな雪の台地を急ぐもの
(窓のガラスの氷の羊歯(しだ)は
だんだん白い湯気にかはる)
パツセン大街道のひのきから
しづくは燃えていちめんに降り
はねぁがる青い枝や
紅玉やトパ-スまたいろいろのスペクトルや
もうまるで市場のやうな盛(さか)んな取引です

《私の感想》
~【冬と銀河ステ-ション】は「春と修羅」の一番最後に
収められています。~
~(宮沢賢治は、詩集を呼ぶことは好まず
心象スケッチと言ってます。)~
~鉱物が大好きな宮沢賢治は紅玉や、トパ-ズといった石もよくでてきます。~

~【冬と銀河ステ-ション】は、【銀河鉄道の夜】を
思い出してしまいました。~
~宮沢賢治は、花巻から土沢、遠野とつながる岩手軽便鉄道(土沢駅)が
大好きでよく乗車していました。~
~【冬と銀河ステ-ション】も、軽便が題材になっていて土沢駅周辺の
冬の朝の活気にあふれた様子が描かれています。~
そらにはちりのやうに小鳥がとび
かげろふや青いギルシヤ文字は
せはしく野はらの雪に燃えます。
みんなは生(なま)ゴムの長靴(ながぐつ)をはき
狐(きつね)や犬の毛皮を着て
陶器(たうき)の露店(ろてん)をひやかしたり
ぶらさがつた章魚(たこ)を品さだめしたりする
あのにぎやかな土沢の冬の市日(いちび)です
~活気に満ちた人々の営みがあります。~
~宮沢賢治が、(銀河)とつかいたくなるような情景だったと思います。~
パツセン大街道は、釜石鉄道のことです。

~郷土を愛した宮沢賢治は、岩手に由来するイーハトヴという名の
理想郷を舞台にして詩や童話などに独自の作品世界を
築いていきました。~
~大正十三年、心像スケッチ「春と修羅」一千部を自費出版しました。~
~宮沢賢治の得異な文学的、哲学的な姿勢がうかがわれる
「春と修羅」は、辻潤(つじじゅん)により
(読売新聞)紙上で高い評価を受けました。~

宮沢賢治(1896~1933)
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