【レ・ミゼラブル】】⑧ああ無情~ユゴ-を読んだ

《あらすじ》 ⑧

マリウスは、やっと覗き穴から目をはなし、床におりました。今しがた盗み見た光景は、彼にとっては信じられない程、驚くべきものでした。

あの老人と少女が、何故あんなところに現れたのか彼には想像もつかないことでした。

しかし、何よりも、幻のように消えてしまっていた、あの天使のような、少女を見たことでした。

二人の後をつけようと彼は玄関に出ましたが、辻馬車は遠くへ走り去っていました。

マリウスは、がっかりして玄関に引き返すとジョンドレットの姉娘が待っていました。

娘は戸口に立つたまま、おずおずと言いました。「マリウスさん、お金持ちではないのに今朝は親切にしてくださったわ。

今、なんだか、とても悲しそう。あたしに出来ることならなんでもするわ。あたしを、使って下さい。」

マリウスは迷惑な気がしたが、ふと思いついて言いました。「あんたのところへ、今お客が来たね。あの人たちの住所を知っている?」

娘は顏をくもらせましたが、「捜したら、何をしてくれる?」

「なんでも、ほしいもの。」「それなら、必ず捜してくるわ。」そう言って娘が出て行きました。

そのとき、隣の部屋から、ジョンドレットの大声が響きました。

マリウスはもう一度、戸棚の上に這い上がり、隙間から覗きました。ジョンドレットが目を光らせながら、部屋の中を歩きまわっていました。

「だけど、そんなことってあるものかね・・・」と、おかみが信じられないと言う口調で言いました。

「だから、お前の目はふし穴なんだ。もう八年近い昔のことだが、俺にはあいつだと一目で分かった。身なりは良くなっているが、声も面(つら)も変わっちゃいねえ。それにな、もうひとつ面白いことを教えてやろうか・・・やつが連れてきた娘は、あれは、うちにいたあの子だよ。」

そうと、聞かされた、おかみの驚きようは大変なものでした。「まあ、驚いた!あんな偉ぶった面をして、私たちを見下していたあの娘が、あのガキかね!」おかみは、鬼のような形相で叫びました。

「ただ悔しがったって仕方がねえ。やつは六時に来ると言った。丁度、隣の貧乏弁護士も夕飯に出かけるし、留守番の婆も外に出て行くときだ。これから仲間を三、四人連れて来る。やつを、やっけて、金をまきあげるんだ!」

「そうだよ。確りやっておくれよ。」

隣の部屋の隙間から、全てを見、聞いていたマリウスはこのままじっとしていることは、出来ないと思いました。しばらく考えてから、マリウスは警察に駆け付けました。

そこには、背の高い、四角ばった顏、薄い唇、何よりも、人の心の奥底まで見抜くような、さすような冷たく鋭い目つき、シャベル刑事が立っていました。マリウスは、この刑事にある種の不気味さを感じましたが、同時に強い信頼感も抱きました。

彼は今しがた見聞きしたことを、残らず詳しく話ました。シャベル刑事は、ピストルをマリウスに渡しました。「老人や少女に危険が迫ったら天井なり床に討って下さい。我々が乗り込みます。」

誰にも見られずにマリウスは自分の部屋に戻り、再び戸棚の上に這い上がり隙間からそうっと覗きました。彼の目に映ったのは、恐ろしいばかりの異様な光景でした。テ-ブルにロウソクが一本立てて、部屋中が真っ赤に照りかえっています。暖炉の中で石炭がかっかと燃え、その中に鉄のこてのようなものがさしこまれていて真っ赤に焼けて炎をあげています。

ジョンドレットも、おかみも顔が真っ赤に染まって、まるで悪魔の夫婦のようでした。

教会の大時計が六時を告げ、時間かっきりに扉がノックされました。ジョンドレットの女房が急いで扉を開け、作り笑いを浮かべながら変に低調な口調で言いました。

「さあさあ、お入り下さいませ。旦那様。」老人は、少女を連れずに一人で来ました。

老人は、テーブルにルイ金貨四枚、八十フランを置いてから言いました。「さしあたって、ご入用と思われるお金です。後の事はご相談致しましょう。」

「これは、これは、ありがとうございます。あなた様の上に神様の祝福がありますように。」ジョンドレット、胡散臭そうに言いました。

そのとき、扉が音もなくすっとあいて一人の男が入って来たのをマリウスは見ました。

浮浪者の身なりをしていて、両腕にどぎつい入れ墨がしてありました。老人は気がついて「あれは、どなた様ですか。」ジョンドレットは「ええ、隣の部屋のものでして、どうかお気になさらずに。」そう答えてから

ジョンドレットは、話題を変えました。「ご覧の通り、わたし共は酷い貧乏暮らしになっちまいまして、それでも絵だけ一枚残っています。背に腹はかえられませんからね。旦那が買って頂ければ有り難いのですが。」

そのとき、また扉が音もなくあいて、三、四人の男が滑り込んだきました。いずれも、人相の良くない、怪しげな、何をしでかすか分からないような連中ばかりでした。

ジョンドレットは絵をとりだしてきました。それはごくお粗末な、どこにでもある看板のような代物でした。

「どこかの店の看板のようですな。三フランもしますかね。」「旦那、ご冗談を。五千フランはいかがですか。」この言葉を聞くと、老人は立ち上がり、壁を背にして部屋を見まわしました。

このとき、ジョンドレットは、がらりと態度をかえ突然ごろつきの口調で「おい、爺さん、この俺様の顔に見覚えがないかね。」

老人は緊張で少し青ざめてはいるが、怯えている様子はなく「ないね。」と答えました。

丁度、示し合わせたらしく扉があいて新たに覆面を被った青い作業着を着た三人の男が入って来ました。一人は鉄棒を握り、もう一人は牛殺し用の斧(おの)を持ち他の一人は刑務所からでもぬすんだような大きな鍵をぶら下げていました。

老人は逞しい拳を固め多数の敵を前にしながらも一歩も引かない姿勢で立つていました。情けぶかかった老人は、今や力強く逞しい闘士に変わっていました。

ひそかにそれを見ているマリウスは、思わず感動の叫びを発したくなるほどでした。

ジョンドレットは、憎々し気な口調で「分からなきゃ、教えてやろう!俺様はテナルディエだ!モンフェルメイュで宿屋をやっていた、あのテナルディエだよ!これで分かったろう!」老人の顔は驚きの影が走りましたが、「さっぱり、分からない。」老人は落ち着いた声で答えたのでした。

驚いたのは、マリウスでした。テナルディエ!父の遺言の中に記されていたあの名前ではないか!マリウスは手にしていたピストルを危うく、とり落としそうになりました。テナルディエに会ったら恩を返してほしいと書いていたではないか。ワ-テルロ-の勇士であったはずの人物が、今、目の前にいる。だが、その人物は凶悪な人間ではないか1恐るべき悪党ではないか!

悪党どもは口々に叫びながら老人に襲い掛かかりました。テナルディエは引き出しの中から鋭いナイフをつかみだしました。

一方、隣室のマリウスはピストルをはなすべきか、まだ決断がつきませんでした。テナルディエの姉娘がわたしも字が書けると言って「イヌがいる」と書いた紙切れがあるのを思い出し、急いで戸棚からその紙切れをテナルディエの部屋に落としました。

「おや、何かおちてきたよ。」テナルディエの女房が叫び亭主に渡しました。テナルディエは、「娘の字だ!イヌがきたと書いてある!しまった!」

悪党どもは争って逃げようとしましたが、そこへ、シャベル刑事を先頭にして警官隊がどっと部屋に踏み込んで来ました。

テナルディエだけが、やけくそになってナイフを振りかざして、手向かりましたがたちまち取り押さえられました。テナルディエの女房が気が狂ったように喚きながら、ジャベ-ル刑事に床石を投げましたが、石は当たらずに床に転がり、あっさりと押さえ込まれました。

シャベル刑事が、書類に悪党一味の名前を書き込み、部下の警官に「あの、老人を、ここに連れてきたまえ。」老人は混乱の隙に窓から素早く抜け出ていました。

「しまった!逃げられたか!あいつが一番の大物だったのに!」

マリウスは、翌朝、、ゴルボ-屋敷を引き払って友人のアパ-トへ移りました。獣よりも醜く残忍な人々の振る舞いを目の当たりにして、とてもそこに住んでいる気になれなかったのです。

あの老人と少女は、どこへ行ったのだろう?それにしても、あの老人はせっぱつまったときに、なぜ助を求めなかったのだろうか?マリウスには、分からないことだらけでした。マリウスは、少女のことが、忘れることが出来ません。

四月のある日、あてもなく散歩をしていると、テナルディエの姉娘に出会いました。

「あの日、あたしたちも警察に捕まったのよ。あたしは、何もしていないし子どもだから、直ぐに許されたの。お父さんは刑務所に入れられてしまったけど。」マリウスは、黙ったままでいました。「なんだか、寂しそうね。訳は分かっているわ・・・。あたしね、あの人の居所分かったのよ。」「何、本当かい、それは?エポニ-ヌ。」「あら、名前を覚えていてくれたのね。ありがとう。何なら案内してあげてもいいわよ。」「お願いだ。お礼はなんでもする。」マリウスは、ポケットから有り金、全部の五フランをだして、エポニ-ヌの手に握らせようとしました。「あたし、お金なんかほしくはないわ。あたしがほしいのは・・・あなたに喜んでもらうことよ。お友だちになることよ。」

《わたしの感想》⑧ 

ゴルボ-屋敷では、マリウスを、知るに連れてテナルディエの娘エポニ-ヌは彼を、好きになり惹かれていきます。

マリウスは、コゼットに会うことが出来ます。でも、マリウスは、祖国フランスのために死ぬ覚悟を決めます。

次回 ⑨ を、宜しくお願い致します。

コメント