【モ モ】(第三部—②)ミヒャエル・エンデを読んだ感想!

《あらすじ》第三部-②

次の日、モモはカメと朝早くからジジの家を捜しに出かけました。

みどりが丘にあるのは、知っていましたが、円形劇場からずっと離れた、郊外の高級住宅地です。

モモは、裸足で歩くのに慣れていましたが長い道のりでした。みどりが丘についたときには、足が痛くなっていました。

本当に高級な住宅地でした。

「どれが、ジジの家か、どうやって捜しだしたらいいのかしらねえ。」モモはカメに話しかけました。

「スグニワカル」カシオペィアの背中の文字が答えました。

「おい、そこの薄汚い子ども!」急に後ろで声がしました。モモは振り向きました。

可笑しな縞模様のチョッキを着た男が、立っています。金持ちの召使はこんなふうなチョッキを着るものだとは、モモは知りません。

「こんにちは。観光ガイドのジジの家を捜しているの。あたしの友だちなの。」縞のチョッキの男は、胡散臭さそうにモモを眺めました。

ふと何か思いついたように、「おまえの言うのは、あの有名な物語作家のジロラモのことじゃないのか?」

「そう、そう、それが観光ガイドのジジよ。」ももは嬉しそうに応えました。

チョッキの男は眉を吊り上げながら、呆れたように言いました。「全く芸術家というやつは?可笑しな気まぐれを起こすもんだ!

この通りを、上りきった所にある家がそうだよ。」庭の戸口が、ガチャンと閉まりました。

坂道を登りきった所にある家は、人の背よりもはるかに高い塀で囲まれていて、庭の門も、チョッキの男のいた家と同じように鉄の板で出来ていて中が覗けません。

「これが本当にジジの家なのかなあ。ぜんぜんジジらしくない」モモは言いました。

「デモ ソウナノデス」カメの甲羅に文字がでました。

「どうしてこんなに、ぴったり閉まっているの?入れないじゃない。」「マチナサイ!」

「そうしましょ。待つんなら、幾らでも出来るもの。」モモはため息をつきました。「スグニデテキマス」甲羅の文字が読めました。

モモは門の前に座り込んで、辛抱強く待ちましたが幾ら待っても何も起こりません。

「本当に確かなの?」しばらくしてから、モモは聞いてみました。カメの甲羅に「ゴキゲンヨウ!」という文字がでたではありませんか。

モモは、ぎくっとしました。「どうしたの、カシオペィア?あたしを置いて行ってしまうつもり?」

「アナタヲ サガシニユキマス!」カシオペィアのこの、説明にますます訳が分からなくなりました。

そのとき、突然門が開いてスラリと長い洒落た車が物凄い勢いで走り出てきました。

モモは、危うく脇に飛びのきましたが、その弾みでひっくり返りました。車は、けたたましく急停車してドアが開きジジが飛び出してきました。

「モモ!本当に間違いなく僕の小さなモモだ!」腕を広げて叫びました。モモは、飛び起きて走りました。

ジジはモモを高く抱き上げるなり、両方の頬に何百回となくキスを浴びせて道の上を踊りまわりました。

「怪我は怪我はなかったかい?」ジジは息を切らして聞きましたが、返事を待ちもしないで、興奮しきってまくしたてました。

モモは、何度も質問に応えようとしましたが、ジジの話は、止めどがなくて口のはさみようがないので、黙って待つことにしてつくづく相手を眺めました。

前とはすっかり変わってしまっていて、身なりがとても綺麗ですし、いい匂いをさせています。でもなんとなく、妙によそよそしく感じられます。

その間に、車から他に四人降りて、運転手用の革の制服を着た男と、お化粧のきついとんがった顏つきの三人の女の人たちがこっちに近づいて来ます。

「さあ、急がないと、飛行機に乗り損ねますよ。そうなったらどういうことになるか、ご存知のはずですが。」

「何てことだ!」ジジは、いら立つて応えました。ジジは、飛行場に行こうと、モモの手を引っ張って車の方に行きました。

ジジは、運転手の隣の席をとると、モモを膝に抱き上げました。三人の女の人は後ろの席に座りました。

「さあ、モモ、話してくれよ!順序よくだよ。どうして、あんなに、急にいなくなっちゃたんだい?」

モモが、マイスタ-・ホラや時間の話を、はじめようとした途端後ろの女の一人が、身をのりだして話しかけてきました。

「ちょっと失礼。是非とも、モモを映画会社に引き合わせなくちゃいけませんわ。今度撮影に入るあなたの浮浪児物語の新しい子役スタ-に打って付けですもの。モモがモモの役をするんですよ。どんな評判を巻き起こすか考えてみてください。」

「僕の言ったことが分からなかったのか?この子を引っ張り込むことには、絶体に反対だ!」ジジは険しい声で聞きました。

「何を考えていらっしゃるのか、他の人ならこんなチャンスには飛びつくのに。」相手はむっとしました。

「僕は、他の奴とは違うんだ!」ジジはいきり立って叫ぶと、ポケットから薬を一粒取り出して飲みました。

同じくいきり立った声が返ってきました。「これは、あなたの宣伝の問題で、どうぞ、よくお考え下さい。今のあなたは、こんなチャンスを見逃せるほど、結構なご身分かどうかをね!」女の人たちは、口をつぐみました。

ジジは疲れ果てたように、目をこすりました。「戻りたくても、もう、戻れない。覚えているかい、(ジジはいつまでもジジだ!)

僕は、そう言ってたね。でもジジはジジじゃなくなっちゃったんだ。モモ、一つだけきみに言っておくけどね、人生で一番危険なことは、叶えられるはずのない夢が、

叶えられてしまうことなんだよ。いずれにせよ、僕の場合はそうなんだよ。もう夢は残っていない。きみたち皆のところに返っても、夢は取り返せないだろうよ。もう、すっかりうんざりしちゃったんだ。」

ジジは暗いめつきで、フロントガラスの向こうを見つめました。

モモは、ただジジをじっと見つめました。何にもまして、ジジが病気だということ、死の病にむしばまれているということが、良く分かりました。

灰色の男たちが陰で糸を引いているのではないか、そんな気がします。でもジジが、何とかしようという意志がぜんぜんない以上、力になって挙げようにもモモには、どうしていいか分かりません。

丁度その瞬間に車は飛行場の前に止まりました。

皆は降りて、もう制服姿のスチュワ-デスたちが待っています。ジジは、モモの方にかがみ込んで、じっと顏を見つめました。

その目に急に、涙が浮かびました。ジジは、まわりの人に聞こえないようにそっと言いました。

「お願いだ。僕の力になってくれ!≪うん≫と言ってくれるだけでいいんだ。」

モモの目にも涙があふれました。

モモは、首を横に振りました。ジジには、モモの気持ちが分かりました。モモは、ジジと、一言も口をきけませんでした。言いたいことは、あれほどあったのに!

要約巡り会ったものの、そのために返って本当にジジを失ってしまったようなそんな気持ちでした。

ホ-ルの出口に向かって歩き出しました。その途端に、怖ろしい衝撃が体を突き抜けました。

カシオペィアまで失ってしまったのです。

「で、行きさきは?」と運転手は、モモが再びすらりと長い洒落た車に乗り込んだとき、聞きました。

モモは、放心したように目の前をみつめました。

運転手に催促されて、モモは「道に落とし物をしたので、ジジの家にお願いします。」

ジジの家の前に着くと、モモは車をおり直ぐにそこいら中探しはじめました。モモは道路を端から端まで捜して歩きましたが、カシオペィアは見あたりません。

何度も何度も、カメの名前を呼びました。夜もすっかり更けてから、やっとモモは円形劇場跡に帰り着きました。

微かな期待ををいだいていたのですが、あの足の、のろさでは戻てきていません。

次の週も、またその次の週も、モモは道路掃除夫ベッポを捜して、あてどもなく大きな町の中をさ迷い歩いて毎日を送りました。

一週間がひと月になり、また数か月になりました。でも、モモはまだ一人ぼっちです。

たった一回ですが、モモはある夕方、橋の欄干に腰かけているとき、遠くの別の橋の上に、背を丸めた小柄な人の姿を見かけました。

その人は、まるで命がけで履いているというよすで、ほうきを振り回していました。モモは、ベッポかと思い、駆け出してその橋に行きましたが、もう姿がありません。

(きっと、ベッポはじゃなかったんだ。ベッポの履き方なら、あたし知っているもの。)モモは、自分を慰めました。

もしモモが出かけていれば、ベッポはまだゆくえ知れずだと思うに決まっています。でも、そうしていてもやはり同じ心配が心配を苦しめます。

部屋の壁に大きな字で、「かえっています」と書いておくことにしました。けれど、いつになってもこれを見た人は、モモの他にはいませんでした。

毎日一回は、モモはニノのところに行き食事に行きました。ニノは、相変わらず忙しくモモとは話をすることは、ほとんど出来ません。

モモは、ときどき一日中、一人で石段に座って、マイスタ-・ホラのところで過ごした記憶、あの花と音楽の鮮やかな記憶、目を閉じて自分の心に耳を澄ませば

たくさんの声の音楽が聞こえてきます。

モモのあじわっている孤独は、おそらくはほとんど誰一人知らないでしょう。モモは、何日か起きにジジの家に行っては、門の前で長い間待ちました。

ジジに、もう一度会いたかったのです。

こうして、過ぎていったのは、たかだか数か月のことでした。本当の時間というものは、時計やカレンダ-では、はかれるものではないのです。

このような性質の孤独についても、本当は言葉では何も表せません。

モモはある日、町で、前にいつも遊びに来ていた三人の子どもに会ったのです。

皆ようすが変わり、灰色の制服のようなものを着て妙に生気のない、こわばった顏をしています。

モモが嬉しくなって声をかけたときでさえ、ほとんど笑顔を見せませんでした。モモは、息を弾ませ言いました。

「凄く、捜したのよ。これから、あたしのところに来ない?」

三人は顏を見合わせ、それから首を横に振りました。「あの頃は良かったわね。でも、もうあんなことは出来なくなったのよ。」と言い三人の子どもは急いで歩き出しました。

「で、これからどこに行くの?」

「遊戯の事業さ。遊び方を習うんだ将来の役に立つってことさ。」ぞの間に皆は、大きな灰色の建物の門の前に着いていました。

入口のドアの上に(子どもの家)と書いてあります。

「きみの、ところで遊んでたときの方がずっと楽しかったよ。」

「じゃ、逃げてきちゃったら?」モモは提案しました。

三人は首を振ると、誰かに聞かれてはいまいかとでもいうように辺りを伺いました。「はじめの頃は、何回かやってみたんだ。でも無駄だよ。直ぐとっ捕まるんだ。」

モモは心を決めて「あたしも一緒に連れてってくれない?いつも一人ぼっちなの。」

ところが、そのとき奇怪しごくなことが起こりました。三人は応える暇もなく建物の中に吸い込まれてしまったのです。

自分と門との間に、忽然と灰色の男が現れたのです。また、あの氷のような寒気が体を這い上がってきます。

「無駄だよ。」灰色の男は、葉巻を口にくわえて、薄ら笑いをしながら言いました。「おまえには、ちょっとばかり、やってもらいたいことがあるんだ。

聞き分けをよくすれば、たっぷりとお礼も貰えるぞ。おまえの友だちも返してやる。やってみるか?」

「ええ。」モモは、微かに答えました。

灰色の男はにやりとし「それなら、今日の真夜中に会って話をしょう。」

モモは、黙って頷きました。そのときには、灰色の男の姿は見えなくなって葉巻の煙が僅かにただよていました。

今夜、どこで会うかは、言わないままでした。

《わたし 感想》

フアンタジ-と、鋭い風刺がこの本には溢れています。

深く豊かな人生への真実を、メルヘンの中に包みこまれています。

次回第三部—③最終話になります。

宜しくお願いいたします。

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