
~【三年目】は、しっとりと、描かれています。~
~わずか、四ページの作品です。~
~街道の宿場の茶屋で、女中奉公をしている
若い女が主人公です。~
~十七歳の「一途」を二十歳の「分別」で封じ込めようとした
恋心を、やはり捨てきれず、ならばその想いに身を投じて
生きようと、決意する物語です。~
《あらすじ》
海が近いのに、三瀬(さんぜ)は山中の宿場のように、
そそり立つ山の傾斜に囲まれている。
夜は山の方からやってきた。
そして海が近い証拠に、海辺の方角の空がいつまでも暮れ残る。
宿場が薄暗くなり、坂田屋、秋田屋、越後谷(えちごや)など、
おはるが働いている茶屋、常盤屋(ときわや)、その向かい角に
ある京夫(ごうふ)の石塚五助(いしづかごろすけ)の店などが、
軒下の安堵(あんどん)に灯を入れる頃になっても、西空には
まだその日の名残りが残っていることがあった。
この時刻が、(おはる)は好きだった。
昼のいそがしさが終わり、夜のいそがしさが始まるまでに、少し間がある。
(おはる)たちの勤めは、立ち寄る客に茶を出したり、夜は酒を出して
客の相手をするのが仕事である。
十七の歳の挽夏、茶屋づとめの(おはる)は男と約束をした。
「三年待ってくれ、かならず迎えにくる」と言った男の言葉を信じている。
男は江戸にいる。
二十になった(おはる)の心は、微妙に揺れる。

幼なじみで、馬型をしている幸吉(こうきち)は、(おはる)が好きだ。
その催促を拒んできたのは、
「あの男に出会ったときのように、火に焼かれたように心を掻きまだすものがない」
からなのだ。
女中仲間は、夢みたいな話を信じる(おはる)を「時々からかったり、明らさまに
嘲ったりする」のである。
越後(えちご)生まれの(おしげ)だけは違った。
(おはる)に同情している。
「ずいぶん待つたもんね。女のさかりのときにさ」。
振り向いた(おはる)の眼の前に、男が立つていた。
店の中から射す光が男を照らしている。
頬がくぼみ、、眼が鋭く、長い旅に日焼けして悴(やつ)れていたが、
男の顔は三年前よりも精悍(せいかん)な感じがした
「どうにか、間に合ったようだね」。と、
その男、清助(せいすけ)は江戸弁で言った。」
清助(せいすけ)は帰ってきた。
しかし、迎えにきたわけではなかった。
もう三年待つてくれ、と(おはる)に言ったのである。

いったんは断ったが、一晩眠らずに考えた末、
(おはる)は幸吉(こうきち)に頼んで舟で小波渡(こばと)に向かっている。
三瀬の宿屋を早朝に出、笠取(かさとり)峠、八森(はちもり)山を越えてくる
清助(せいすけ)を、舟で近道をして、小波渡(こばと)の砂浜でつかまえるためだ。
そして、一諸に江戸に行こうとしている。
《私の感想》
~(おはる)の若い一途な想いが、ひしひしと伝わってきます。~
頬がくぼみ、、眼が鋭く、長い旅に日焼けして悴(やつ)れていたが、
男の顔は三年前よりも精悍(せいかん)な感じがした
「どうにか、間に合ったようだね」。と
その男、清助(せいすけ)は江戸弁で言った。」
~どうも、清助(せいすけ)は、ごろつきのような気がします。~
~それだけに、若い(おはる)の一途な恋が切なく哀れに思えてしまいます。~
~自分を、掛けるほどの男とは思えない男に惚れてしまう。~
~幸吉(こうきち)のような平凡な男の方が(おはる)を大切にしてくれるのに。
~運命の皮肉を、感じます。~

藤沢周平(1927~1997)
平成九年逝去
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