
【本当は恐ろしいグリム童話】を、
読んだのは十代の頃でした。
言葉では表現出来ない程、衝撃的でした。
あまりに、衝撃が強く、
一旦は本を閉じてしまったのを覚えています。
メルヘンの世界が見事に崩れてしまいました。
今、改めて再読しますと、十代の頃は
時代の背景など考えず、ただ生々しい性を
ほのめかしすぎると
思っていた自分も若かった気がします。

今だから分かるのですが、
桐生操は、【本当は恐ろしいグリム童話】を、
その奥に隠された深層心理などを徹底的にえぐりだし
生々しく
生き生きと、
桐生操なりの解釈と表現方法で書いた
【本当は恐ろしいグリム童話】だと思いました。
今の私は、桐生操に惹きつけられました。

白雪姫は父親をめぐる実の母娘との愛の闘い。
七人の小人たちの夜伽の相手をする白雪姫。
王子は白雪姫の(死体愛好病)であったが
生き返った白雪姫。
実の母親(王妃)が娘を毒リンゴで殺害。
娘が王妃(母親)を魔女専用の拷問道具で殺害。

でも、何といっても恐ろしいのは(鉄の靴)
中世ヨーロッパで盛んに行われた魔女専用の拷問道具で、
十六世紀末にスコットランド王ジェ-ムズ六世が
この器具を用いて、残虐そのものの魔女裁判を行なった話が有名です。
このときは、囚人に真っ赤に焼けた鉄の靴をはかせた上、
ハンマ-で靴を叩きつぶすという、
地獄のように凄惨なシーンが繰り広げられたといいます。
人間の肉の焼ける
むかつくような匂いの中で、王妃の肉体は大きく飛び跳ね
踊って踊って踊りつづけました。
そしてついに、力尽きて、その場にばったり倒れました。

白雪姫と王子はどんな思いで見ていたのでしょうか。
テ-ブルの上に並べられたご馳走を口に運びながら、
あるいは、共犯者の微笑みをかわしながらでしょうか。
死体愛好病の王子と、贅沢病の白雪姫。
案外、残酷で似た者同志の二人は、
それなりにその後は、楽しく暮らしていたかも?
でしょうか。
中世ヨーロッパに吹き荒れた(魔女狩り)の嵐を主催したのは、
もしかしたら、こんな人々だったのではないでしょうか。

桐生 操(きりゅう みさお)
プロフィ-ル
パリ大学(ソルボンヌ大学)、リヨン大学にて
フランス文学・歴史を専攻。
帰国後、執筆活動を行う。
人物評伝や歴史の知られざるエピソ-ドを
様々な形で紹介している。
その作品には拷問や悪女を取り扱うものが多い。
主な著作に【本当は恐ろしいグリム童話】
【やんごとなき姫君】がある。
【本当は恐ろしいグリム童話】はミリオンセラ-となった。
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