
【イワンのばか】
ロシアの文豪トルストイの名作。
ロシア民話。
子供向けの創作民話。
物語は単純です。
強欲な兄や悪魔の誘惑に負けずに、
地道に自らの体と手を使って
生活するイワンの物語です。
大人になって読んでみて、
格差のある社会に生きている私たちに
トルストイは強く訴えてくる物語です。
《あらすじ》
登場人物
主人公 : イワン(三男)
軍人 : セミョ-ン(長男)
商人 : たいこ腹のタラ-ス(二男)
口のきけない妹 : マルタ
悪魔の親方
三匹の小悪魔

昔、ある国のあるところに、お金持ちの百姓が住んでおりました。
三人の息子と、口のきけない妹がおりました。
軍人のセミョ-ン、たいこ腹のタラ-ス、ばかのイワンです。
後、口のきけない妹です。
イワンは、妹と一諸に家にのこって、骨身をおしまずに働いていました。

ある日、セミョ-ンとタラ-スが実家に戻って来ると、
財産を分けるように言ってきました。
父は家のために何もしない兄たちに、財産を分けてやる気がしませんでした。
イワンは
「なに、いいとも。私は働いて、埋め合わせをするよ。」
家には老いぼれた牝馬と、父と母を養ってゆかねばなりませんでした。
悪魔の親方には、兄弟が財産を分けることでけんかをしないで、
仲良く別れたことがいまいましくてなりません。
そこで三匹の小悪魔を呼びだしました。

三匹の小悪魔たちに、
「兄弟三人たちがいがみ合うように、ひっかきまわしてくれ。」
と命じさせました。
セミョ-ンとタラスは、小悪魔にそそのかされて
欲を抱えすぎて直ぐに、妻と一諸に実家に帰ってきました。
イワンのことを、セミョ-ンの妻は
「イワンの臭いが嫌だ」
たいこ腹のタラ-スの妻は
「ばかと一諸だとご飯が食べれません。汗臭くって、たまらないんですもの」
イワンは
「ああ、いいとも。」
と言って、パンをもって外に出ました。

しかし、イワンは小悪魔のつばの入ったクワス(ロシア人の好きな飲み物)
を飲んで腹痛を起こしてしまいました。
小悪魔は地面を石のように、かたくしてしまいました。
イワンはそれでも、(すき)を持ってきて腹が痛く、うなりながら耕しています。
悪魔が地面にもぐって(すき)をおさえようとしたら(すき)は
とがっているので、小悪魔の両手は傷だらけになってしまいました。
そうこうしているうちに、小悪魔はイワンに捕まってしまいました。
小悪魔が泣き声をだして言いました。
「どうか殺さないで下さい。そのかわり、なんでもお望みのことをしてあげますから。」
小悪魔から小さな根っこをもらい
「1本飲めばどんな痛みもなおります。」
イワンは受け取って引き裂いて1本飲むと、
すぐに痛みがとまりました。

イワンが、
「神様のおまもりをうけろ。」
と小悪魔に言うと、神様と聞いただけで
小悪魔は水におちた石のように土の中にもぐりこんで、
後は穴がひとつ残っただけです。
イワンは残りの2本の根っこを帽子の中に入れて、
畑を耕しにかかりました。
兄たちを破滅させようとした二匹の小悪魔も、
イワンを破滅することが出来ず失敗して、
捕まり逃がしてもらうかわりに麦の束を揺すぶると
沢山の兵隊がでてきました。
もう一つは、樫の木の葉をもむと金貨がばらばらじべたに落ちました。
この二匹の小悪魔も、イワンが神様と言う言葉を口にするいなや、
水におちた石のように、土の中にもぐりこんで穴が二つ残っただけです。
イワンは百姓や女たちにご馳走して金貨をばらまいたり、
兵隊たちは、太鼓をたたいたりラッパを吹いたり、楽しみました。

あくる朝、その話を聞いた兄たちは金貨と兵隊をせがみ、
イワンは欲しいがままに分けあたえます。
セミョ-ンは兵隊を連れて、戦争を太鼓腹のタラ-スは
イワンから貰った金貨を元手に商売を始め、それぞれ王様になりました。
イワンは家で暮らして、父や母を養い、
口のきけない妹と二人で畑の仕事をしていました。

イワンの飼っている、年とった犬が病気にかかって、
できものだらけになってしまいました。
パンをやろうとしたら、帽子が破けて、一本の根っこが落ちて
年とった犬はパンといつしょにその根っこも食べてしまいました。
年とった犬の病気はすっかり治りました。
お父さんと、お母さんは、それを見て、びっくりしました。
イワンは、
「根っこを二本持っていたのさ。これでどんな病気でも治せるんだ。
そいつを、一本この犬が食べたんだよ。」と
ちようどそのころ、王様の娘が病気になりました。
王様は、国中の町や村に、
「お姫様の病気をなおした者には、ほうびをやるし、
もし、ひとり者なら、お姫様を嫁にやろう、」
と、言いました。
イワンの村にも、このおふれが、まわってきて、
イワンの親は、
「あの根っこでお姫様の病気を治してあげるといいよ。」
イワンは新しい着物をきせてもらって入口の階段を出ると
手の曲がった女のこじきが立っています。
女のこじきは、
「おまえさんは、どんな病気でも治すそうだね。
どうか、私の手を治してくれ、自分で靴も履けないいんだから。」
イワンは
「ああ、いいとも!」
と言って、根っこをとりだし、女のこじきにわたし、
「それを飲みこむように。」
と言いました。女のこじきはすっかりよくなりました。
イワンの親は
「お姫様を気の毒におもわないのかい?」
イワンはお姫様もかわいそうになったので出かけようとしました。
親は
「ばか、どこに行くんだい。治すものもないんじゃないか?」
「なに、いいんだよ。」
と言ってイワンは馬車を走らせました。
イワンが王様の御殿へ乗りつけて階段に足
をのせるか、のせないうちに、お姫様の病気は治ってしまいました。
王様は、大変喜びイワンはお姫様と結婚しました。
まもなく王さまが死んだので、イワンが王様になりました。
こうして三人の兄弟は皆、王様になったのです。

王様の弔い(とむらい)をすませると
お父さんと、お母さんと口のきけない妹をつれてきて、
また百姓仕事をはじめました。
皆が
「あなたは、王様ではありませんか。」
「給金を払うお金がありません」
「この男が私の金をぬすみました」
皆が、イワンはばかなのだということを知りました。

イワンの妃(きさき)は、さんざん考えたあげく自分もばかになりました。
口のきけない妹のところへ働き方おそわりました。
妃は、働き方を覚えたので、夫の手伝いをするようになりました。
イワンの国からは、かしこい者がみんな出て行って、ばかだけがのこりました。
お金はだれももっていません。
達者(たっしゃ)で暮らして、働いて、
自分をやしない、心やさしい人たちに食べさせてやります。

悪魔の親方は、小悪魔三人が知らせをもってこないので、
自分でようすをさぐりにでかけました。
ただ、穴を三つ見つけました。
悪魔の親方は腹を立てました。
そして、兄たち二人をかたずけたので、イワンのところに行きました。
悪魔の親方は綺麗なみなりをして
「私は頭で働いたから、いまあなたがたに教えてあげれれるのです。」
イワンは驚きました。
「どうか教えてくれ。今度両手がひどくつかれたら、頭をかわりにつかえるといいな。」
イワンは国中にお札を出して、綺麗な服着た旦那があらわれて、
皆にに頭で働くことを教えてくれる。
頭を使う方が、手を使うよりももっと仕事ができるということを、教えるから
皆習いにくるようにと、言いつけました。
綺麗な服を着た旦那は、やぐらの上にのぼって、
そこから喋りはじめました。
悪魔の親方は、どうしたら働かないで暮らせるかということを
口さきだけで教えただけです。
ばかたちは何ひとつ分かりません。
しばらく見ていましたが、めいめい仕事があるので帰って行きました。
悪魔の親方はおなかがすいて、弱りはて、
はしごの下まで頭を地面に突っ込みました。
いきなり地面がさけて、悪魔の親方はその中に落ち込んで後には穴が
一つ残っているだけです。

イワンは、
「けがらわしい。きっとやつらの親分だろう。これはすごい。」
二人の兄も来たのでイワンは兄たちを養っています。
ただ、ひとつ
この国にはしきたりがあって、手にまめのある者は
食事にの席につかせてもらえるが、
まめのないものは、人の残りものを食べなければならないのです。
《私の感想》
イワンの国は、平等に働いて困っている人には分け合い助け合う理想的です。
兄セミョ-ンは、軍人:軍事主義、
たいこ腹の、タラ-ス二番目の兄は
商人:資本主義
イワン:平和主義
トルストイは兄のようになんでも、欲張るのではなく、
皆平等という強い作品だと思います。
年老いた悪魔の親分・小悪魔三匹も、悪賢く色々とたくらんだり、
読んでいて何か考えさせられました。


レフ・ニコラ-エヴィッチ・トルストイ
(1828-1910)
ロシアの偉大な文学者
有名な小説:戦争と平和・アンナカレ-ニナ・復活など
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