
【寝太郎(ねたろう)の知恵】(山口県)に伝わる昔話です。
怠け者と思われていた寝太郎が実は、村を救う知恵者だったという物語です。
【 あらすじ 】
昔、厚狭(あさ)という村に、朝から晩までごろごろ寝てばかりいる男がいました。

庄屋の一人息子でいい年の若者でしたが、一日中何もせず、ただ寝ていたそうです。
「そろそろ起きて、仕事をしたらどうだ」
と父親に言われても、いっこうに起きだす気配はありません。
とうとう村人たちから「厚狭の寝太郎」と呼ばれるようになてしまいました。
ところがその寝太郎が、三年三ヶ月もの間眠り続けて、ある日ひょっこりと起き上がるとこんなことを父親に言い出しました。
「おとう。千石船と千足のわらじをおれにくれよ」
「なんだって、お前はまだ寝ぼけているのか?千石船と千足のわらじをどうするつもりだ」
「まあ、いいから。おれにいい考えがあるんだ」
しばらく考えていた父親は、
「よし、分かった。お前に考えがあるというのなら、わけは後から聞くことにしよう」
と、おおあわてで千石船と千足のわらじを、寝太郎のために用意しました。
それから寝太郎は八人の船乗りを雇(やと)い、千石船にわらじを積み込むと、佐渡ヶ島を目指して厚狭の港を後にしました。

二十日ばかり舟に揺られて佐渡ヶ島に着くと、寝太郎はすぐに金山(きんざん)を掘(ほ)っている人たちの集まるところに行って
「おおい、わらじはいらんか。新しいわらじだ。古いわらじは、歩きにくかろう。新しいわらじはいらんかね。タダで取り替えてあげるよ」と大声で呼びかけました。
あちこちの金山で働いていた人たちはこれを聞くと、われもわれもと寝太郎のところにやってきて履(は)いていた古いわらじを脱ぎ捨てて、新しいわらじに履き替えていきました。

寝太郎が持つてきた千足の新しいわらじは、数日もしないうちに、古いぼろぼろのわらじの山に変わってしまいました。
寝太郎は、古いわらじをもう一度千石船に積み込むと、二十日かけて厚狭の港に帰って来ました。

「おとう、今度はでっかい桶(おけ)を用意してくれや」
またまた変なことを言い出しましたが、それまで怠(なま)け者だった寝太郎の、生き生きしている姿を見て嬉しくなった父親は、
「よしよし、すぐに用意しよう」
と大きな桶を用意してくれました。
寝太郎は、その桶に佐渡ヶ島から持ち帰った古いわらじを投げ込み、水でいっぱいにして棒でかき回して、わらじを洗いました。

すると桶の底にわらじについていた泥(どろ)がたまり、ところどころキラキラ輝(かがや)いて見えました。

寝太郎がうわずみの水をそろりそろりと取り去ると、桶の底の泥の中から黄金(こがね)の粒(つぶ)がザクザクと、こうしてわらじについていた黄金のおかげで、寝太郎はたちまち大金持ちになりました。

寝太郎は村人たちに言いました。
「この金で厚狭川の上流に堰(せき)を作って、この荒(あ)れ果てた土地に水を引こう。そして田畑を作るんだ」
村人は驚きましたが寝太郎の言うとおりに、厚狭川の上流に大きな堰を作りました。
やがて堰から引いた水は田畑をうるおし、田には黄金色の稲穂(いなほ)が揺れて、畑には麦や野菜が満ちあふれるようになりました。

のちに寝太郎は、村人たちから「寝太郎さま」と崇(あが)められるようになったそうです。

(駅前に立つ巨大な三年寝太郎像)
《 わたしの感想 》
寝太郎は、三年三ヶ月もの間眠り続けて突然行動を起こします。
考え抜いた寝太郎の知恵が大きな成果を生みました。
村人たちにとって寝太郎は感謝と英雄となりました。
忍耐と、知恵の大切さが伝わってきます。
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