
団三郎狸は、新潟県(佐渡市)に伝わる化け狸です。佐渡ではタヌキを、狢(むじな)と呼んでいたことから団三郎狢
(だんざぶろうむじな)ともいいます。
【佐渡の団三郎】は、佐渡ヶ島の団三郎ムジナが、加賀のキツネと化け比べをして見事に騙したお話です。
(あらすじ)
昔昔、佐渡ヶ島にはキツネがいませんでした。
だから佐渡ヶ島に住むムジナたちは、わがもの顏でいろいろないたずらをしていました。

中でも、団三郎という名のムジナは、その化けっぷりが特に見事で、ムジナたちの親分だったそうです。

ある日、村の一人が歩いていると、道端に地蔵があるのを見つけました。
「おや、いつの間にかこんなところにお地蔵さまが立っておられる。何ともありがたいお顏をしていらっしゃるなぁ」
村人はそう呟くと、弁当のおむすびを一つ取り出して地蔵に供えました。
村人が立ち去ると、茂みの中からたくさんのムジナが飛び出してきて、地蔵を取り囲みました。
「いやあ、やっぱり団三郎親分は凄い」「簡単におむすびを手に入れたよ」「あの人間、まったく気づいてなかったね」
ムジナたちが騒ぐと地蔵にひげが生え、尻尾(しっぽ)がでて、あっという間にムジナの姿になりました。
そして、「何の、何の、これしきのこと」と地蔵に化けていた団三郎は笑いました。
こうしてムジナたちは、毎日人間を化かしては、いたずらばかりしていました。
ところが、それからしばらくすると、団三郎は何か考えごとをするようになりました。
そしてある日、子分たちを集めると宣言しました。
「世の中には、わしの知らないことがまだまだあるに違いない。何しろわしは、佐渡ヶ島からでたことがないのだからな。そこで、人間たちが一生に一度は行きたいというお伊勢参りとやらに行こうと思う。わしの留守の間、しっかりやってくれよ。よろしく頼むぞ」

こうして団三郎はお伊勢参りに出かけました。
船に乗り込み佐渡ヶ島を出ると、昼間は人間に化け、夜になるとムジナの姿に戻(もど)って、野を越え、山を越え、やっと伊勢につきました。
「なるほどなぁ。人間たちが騒ぐだけのことはある。立派なものだ」大きな社(やしろ)もさることながら、美しい神楽(かぐら)やお参りの人の多さにも関心しました。

そして、満足したので、子分たちの待つ佐渡ヶ島へ帰ることにしました。その途中、団三郎は加賀の国で一匹のキツネと知り合いになりました。

「お前さんはどこから来たんだ」「わしは佐渡ヶ島からお伊勢参りに来て、これから帰るところだ」
するとキツネは、「佐渡ヶ島にはキツネがいないと聞いたが本当かい」と聞きました。
団三郎が「ああ、そのようだな」
と答えると、キツネは目の前にいるのが佐渡ヶ島のムジナの親分であるということも知らずにに問いかけてきました。
「あんた、団三郎ムジナというやつに会ったことがあるかい?そいつは化けるのが、一番うまいと、この加賀の国でも評判になっている。だが、ムジナばかりの島で、一番と言ったってなぁ、おれたちキツネに比べたらどれほどのもんか。おれはそいつと勝負してみたいんだ。どうだ、おれを佐渡ヶ島まで連れていってくれないか」
団三郎は腹が立ったが、今さら自分がその佐渡ヶ島の団三郎ムジナだと言うのも何だと思い返事に困っていると、ふと、あるたくらみが頭に浮かびました。
「それじゃあ、その前にわしと化け比べをするのはどうだ。お前さんが勝ったら佐渡ヶ島へ案内しよう」
と団三郎が言うと、キツネは軽く答えました。
「そいつは面白い。まずは腕試しだ」「それでは明日、わしが殿さまの行列に化けてこの道を通るから、お前さんは女に化けて、殿さまの駕籠(かご)に声をかけてくれ」
「そんなことならお安い御用だ。よし、明日ここで待っているからな」
翌日、キツネが道のわきの茂みに隠れていると、殿さまの行列がやってきました。

人間たちは行列を見ると、土下座をして頭を地面にこすりつけています。
「佐渡のムジナもなかなかやるもんだな。今度はおれの出番だ。それ」キツネはくるりと宙返りをするとパッと女に化けました。

そして、目の前を通る殿さまの行列の中に入り込み、「いやいや、佐渡のムジナどん、見事に化けたもんだねえ」
と言いながら殿様の駕籠の戸に手をかけようとしたとき、いきなり襟首(えりくび)をつかまれました。
「この無礼者」そう言って、お供の侍が刀を抜きました。(しまった、これは本物の行列だ)
キツネは大あわてで、茂みの中へ逃げ込みました。
この様子を木の上から見ていた団三郎は大笑いをしました。団三郎は今日、本物の殿さまの行列が通ることを知っていました。
「化けるだけなら苦労はいらぬ、化かすというのはこういうことをいうのだ」
そう言うと、団三郎は加賀の国を後にしました。
こんなわけで今でも、佐渡ヶ島にはキツネがいないということです。
《わたしの 感想》
キツネは、人を化かし、人の目をたぶらかし欺く感じがします。
タヌキは、不思議と騙されても憎めない感じがします。
佐渡にキツネがいない理由として、団三郎が佐渡からキツネを追い払うためという伝説もあります。
団三郎の化かしは数多く続きましたが、人間との知恵比べに負けたため人を化かすことをやめたという伝説もあります。
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