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下田富士は、天城山の近くにある富士の名が恥ずかしいほどの小山です。駿河富士は、現在の富士山です。
この下田富士と駿河富士は姉と妹でしたが、姉の下田富士は妹の駿河富士があまりに美しく育つのを見ているうちに恥ずかしくなり、いじけて身体が縮み小さな山になったと伝えるのが【下田富士と駿河富士】のお話です。
(あらすじ)
昔昔、日本の国は、まだ出来上がっていませんでした。あちらで山が造られ、こちらで川が造られ、向こうに湖が造られて、だんだんと
国づくりが進められているころの話です。
伊豆に下田富士という山が生まれました。それからしばらくすると駿河に駿河富士という山が生まれたので、先に生まれた下田富士が(姉)後の駿河富士が(妹)ということになりました。

二つの山はとても仲がよかったです。姉の下田富士が、「今日はお天気がいいわね。」と声をかけると「ええ、お姉さま、今日も心地良い風が吹いていい気持ちだわ」と妹の駿河富士は答えました。そして姉の下田富士は、妹の駿河富士の面倒をよく見てやりました。
「駿河富士や、雨が降りそうよ。さあ、私の傘にお入りなさい」雨が降りそうになると姉はそう言って、妹に笠雲を掛けてやりました。そして風が吹けば「駿河富士や、今日は風が強いわ。さあ、この影に隠れなさい」と長い雲の手を伸ばして妹を覆(おお)ってやりました。二つの山の中の良さは周りの国々でも評判になるほどでした。ところが、やがて月日が経って二つの山が年頃になると、困ったことが起きました。
妹の駿河富士は日に日に美しく成長し、長い裾(すそ)を麓(ふもと)いっぱいに広げました。

朝日や夕日に照らされて、ほんのりと紅色に頬を染めるその姿は人目を引きました。「なんと美しい。日本一の美しさだ」気品がある妹は、誰からも褒(ほ)められました。
けれど姉の下田富士の丸くふくれたボタモチのような顏や、岩がごつごつしている山肌は、誰からも好かれませんでした。

子どもの頃は仲良く一諸に過ごしてきましたが、年頃の下田富士は妹ばかり褒められるのが気に入りません。妹と顏を合わすことさえ嫌(きら)うようになっていきました。そうして、とうとうある日のこと、下田富士は妹との間に屏風(びょうぶ)として、大きな天城山を立ててしまいました。

驚いた妹は、「お姉さま、お姉さま、お顏を見せてくださいませ」と声をかけて背伸びをしました。すると下田富士は、見られるのも嫌(いや)だと卑屈(ひくつ)になって身を、屈(かが)めました。妹はそれを気にして、「お姉さま、下田のお姉さま、どうなさったの?」と、ますます背伸びをします。下田富士はいよいよ身を縮めて天城山の山陰に隠れました。「お姉さま、お姉さま、下田のお姉さま、お顏が見えません。お顏を見せてくださいませ」こうして妹の駿河富士は恋しい姉を見たいと毎日毎日背伸びをして、どんどん高くなって、やがて日本一高い山になりました。反対に姉の下田富士は、妹に見られまいと屈み込むあまり、とうとう日本中の富士と呼ばれる山の中で一番低い山になってしまいました。
《わたしの 感想》
仲の良かった姉妹が、年頃になるとどうしても器量の良い方に人は褒めたたえます。下田富士の気持ちが、切ないほど分かります。
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