
神さまから授かったヘラで尻を撫でると音が鳴り出し、その音を止めると長者になるというおおらかな笑い話です。
《 あらすじ 》
昔、あるところに、さっぱり人の来ない神社がありました。

拝(おが)みに来る人があんまり少ないもんだから、そこの神主(かんぬし)さんの暮らしは楽ではなかったです。
それで神主(かんぬし)さんは、神さまにお願いすることにしました。
「どうか、人が来ますように」
七日(なのか)の間、神主さんは何も食べずに一心にお願いしました。
すると、七日目の夜のこと、神主さんの寝ている枕元(まくらもと)で声がしました。

「この白いヘラと黒いヘラをお前に授けよう。白いヘラでお尻(しり)を撫(な)でるとたちまちお尻が鳴り出し、黒いヘラで撫でるとぴたっと止まる。これでお前の願いはかなうだろう」
神主さんがパッと目を覚ますと、枕元に白いヘラと黒いヘラが置いてありました。
(これはいいものを授かった。近いうちに一つ試してみよう)
神主さんは喜んで、その日が来るのを待ちました。
やがて月日が経ち桜の花が満開になったころ、村いちばんの長者の家では花見の宴(うたげ)が開かれることになりました。
みんなでわいわいと酒を飲み、ごちそうを食べているうちに、長者のおかみさんは、すっかり酔っぱらってしまいました。

そのうちおかみさんは便所に行きたくなって、ひとけのないほうへとふらふら歩いて行きました。
隠(かく)れてその様子をうかがっていた神主さんは、白いヘラを取り出し、さっとおかみさんのお尻を撫でて、またさっと隠れました。

すると、古道、古坂、古街道の坂々(さかざか)で、白いヘラで撫でられて、そうれでお尻が鳴きやるぞ。ひょうろんこ、ひょうろんこ。
おかみさんのお尻が急に鳴り出しました。
おかみさんは驚いて、すっかり酔いも覚めてしまいましたが、お尻の音はいつまで経っても鳴り止(や)みません。

やがてその音を聞きつけた人が大勢集まって、大騒(おおさわ)ぎになりました。
「医者を呼べ」
しかし医者に見せてもいっこうに治りません。
あっちの医者、こっちの医者を呼んでもやはりなおりません。
「医者でだめなら、拝んでもらおう」
今度は、あっちこっちの神主さんや、お坊さん、山伏(やまぶし)に拝んでもらいましたが、それでもなおりません。
古道、古坂、古街道の坂々で、白いヘラで撫でられて、そうれでお尻が鳴きやるぞ。ひょうろんこ、ひょうろんこ。
「誰かほかに拝んでくれる人はいないのか」
長者が言うと、
「そう言えば、あそこの神社の神主さんはまだじゃ」
と誰かが答えました。
それでようやく、人の来ない神社の神主さんが呼ばれて拝むことになりました。

神主さんは、待っていましたとばかりに長者の家に行くと、
「人がいたのではお祈りの効果が現れないから、皆さん、外で待っていてください」
と言って、みんなに部屋から出てもらいました。
それから神主さんは大きな声でお祈りをしながら、おかみさんに気づかれないよう、黒いヘラでこっそりお尻を撫でました。
すると、今までのお尻の音がうそのように、ぴたりと止まりました。
おかみさんも長者もとても喜んで、神主さんはたくさんのお礼のお金をもらいました。
神主さんはそれで味をしめたから、もう一度やってみょうと、たまたま通りかかった別の長者の家の馬の尻を白いヘラでさっと撫でました。
するとたちまち、古道、古坂、古街道の坂々で、白いヘラで撫でられて、そうれでお尻が鳴きやるぞ。ひょうろんこ、ひょうろんこ。

馬の尻が鳴り出したから、馬は驚いて大暴れし始めました。
馬の持ち主の長者はあっちの医者、こっちの医者に見せたがどうしても治りません。
そのうち誰かが、
「むこうの長者のおかみさんとそっくりだ。これは、あの神主さんに拝んでもらえば治るんじゃないか」と教えてくれました。
呼ばれた神主は、待っていましたとばかりにまた、大きな声でお祈りしながら、黒いヘラでこっそり馬の尻を撫でました。
すると、尻の音はぴたりと止まり、暴れていた馬もおとなしくなりました。

神主さんはまた、馬の飼い主の長者からたくさんのお礼のお金をもらいました。
それからというもの、このことが評判になったから、神主さんの神社へ拝みに来る人
がどんどん増えました。
神主さんは、(これ以上いたずらしては、罰(ばち)があたるな)
と思って白いヘラと黒いヘラを川に流してしまったそうです。
《 わたしの 感想 》
設定が、非常にユーモアがあります。
知恵を使って困難を乗り越え、神さまから授かったヘラで神社に人が来るようになり結果としてラッキ-です。
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