
笠地蔵は、しんしんと降り積もる雪の中に地蔵様が、ぽつんと立っていました。
貧しいけれど、優しい爺様が雪と寒さから守ってあげたことから物語りは展開します。
民話は日本各地に分布しますが、地域ごとに異なる部分もみられます。
《あらすじ》
笠地蔵(兵庫県)
昔昔、あるところに、たいそう貧しい爺様と婆様が住んでいました。
ある大雪の夕暮れどき、爺様が町で用事をすませて、家の近くまで帰ってくると、しんしんと降り積もる雪の中に地蔵が、ぽっんと立っていました。
(お地蔵さん、こんな雪の中でお寒いでしょう)

優しい爺様は、自分がかぶっていた笠を地蔵にかぶせてやりました。家に戻ると、婆様は村の庄屋の家にお産の手伝いに行って留守でした。爺様は一人で晩飯を食べてから布団に入りました。
そうして夜もだいぶ更けた頃、家の外から、
「爺様、爺様」という声が聞こえてきました。
そしてドンドンと戸をたたく音がします。
(こんな寒い夜に、誰だろう)
不思議に思った爺様が戸を開けると、さっき爺様が笠をかぶせてやった地蔵が立っていました。

爺様がびっくりしていると、地蔵は言いました。
「夜中に起こしてすまんな。実は、爺様に頼みがあってきたんじゃ。今晩、庄屋のところに子どもが生まれるんだが......」
「ええ、ええ、うちの婆様は、それで手伝いに行っております。その子に何かあるんですか」
と、爺様が聞くと地蔵は話し出しました。
「その子は男の子でな、十になるまでは、とても元気に育つことになっとる。ところがな、困ったことが起きるんじゃ。その子が十になったとき、隣村の祭りに一人で行くことになるだろう。隣村に行くには橋を渡らなければならない。その橋を無事にわたることができれば長生きできるんじゃが、渡れないと、そこで命を
落とすことになる」
「隣村に行く橋なら知っております。あの橋は大きくって、丈夫な橋ですが」
爺様が聞くと地蔵は言いました。

「いやいや、その橋は恐ろしい橋でな、祭りの日の昼前に、その子が渡ると死んでしまうんじゃよ。昼を過ぎてから渡れば無事なのじゃ。だから何とか、その子にわけを話さず、昼過ぎに渡るように仕向けてもらえんだろうか。そうすれば、爺様の家も庄屋の家も繁盛するはずだ」
そう言うと、地蔵は雪の降る中を帰っていきました。
朝になって、庄屋のところに手伝いに行っていた婆様が帰ってきました。

「婆様や、庄屋さんのところに昨夜、男の子が生まれただろう」
「そうそう、元気な男の子が生まれましたよ。けれど、爺様や、どうしてそれをお知りになったんですか」
「わけは言えんけどな、ちょっと気になることがあってな」
「気になることってなんですか」
「まあ、急ぐことではない、これからずーっと先のことだから」
と言って、爺様は婆様に昨夜の地蔵のことは話ませんでした。
そのときに生まれた庄屋の子はたいへん頭のいい男の子で、体も丈夫に、すくすくと育ちました。
やがて十才になる日がきました。
その日、ちょうど隣村ではお祭りがあるということで、庄屋の子は母親と出かけることになっていました。
けれど、母親に急な用事ができて、庄屋の子は一人で出かけることになりました。

庄屋の子が隣村に行こうとして、大きな橋まで来ると、遠くから見ていた爺様が、偶然通りかかったふりをして声をかけました。
「坊や、いいことを教えてあげよう。この袋の中に炒り豆が入っている。これを一粒ずつよく噛んで食べてごらん。一粒ずつ食べるんだよ。そして、食べ終えるまでは、
この橋を渡ってはいけない。そうすれば、大人になってからきっといいことが
あるよ」
庄屋の子は素直で、人の言うことをよく聞く子だったので、爺様から炒り豆を
受け取ると、
「はい、分かりました。爺様、炒り豆をありがとう」
と言って、炒り豆の袋を持って橋の手前に座ると、一粒ずつよく噛んで食べ始め
ました。

しばらく食べていると、今まで静かに流れていた川が、突然、真っ黒くなって水があふれ出しました。
庄屋の子はびっくりして、じっと川を見ていると、川上のほうから、真っ黒い墨のようなかたまりが流れてきて、たちまち橋を壊してしまいました。
それから、
「悔しい、時間切れだ!」
と大きな声がしたかと思うと、川は急に静かになりました。
それは真上にあった太陽が、ちょうど西の空に傾き始めたところでした。
庄屋の子は、何が何やら分からなくて、飛んで家に帰ると、一部始終を父親である庄屋に話ました。
爺様の炒り豆のおかげで息子が無事だったと知った庄屋は、爺様にたくさんのお礼をしました。
こうして庄屋の子は、それからずーっと長生きして、立派な跡取りととなり、村も庄屋も栄えました。
爺様と婆様も、毎年かかさず地蔵へお参りをして、いつまでも幸せに暮らしたということです。
《わたしの 感想》
爺様は、どんなに貧しくともお地蔵様に寒さから守ってあげようと笠を差し出す優しい心の持ち主。
今の自分に置き換えてみると、中々出来る事ではないと思いました。
神様、仏様に手をあわせ、そして大きな心を持っていこうと思いました。
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