【しらひげ草の由来】(石川県)ふるさとの昔話を、読んだ感想!

【しらひげ草の由来】は、北陸の伝説であります。

《 あらすじ 》

昔昔、白山(はくさん)の山奥に、世のけがれを知らない、ウルシカルベという名の心の美しい青年がいたそうです。

「鳥よ、鳥よ山中の鳥よ、集まって歌っておくれ」

「鹿さん、鹿さん、今日も一諸に遊ぼうよ」

ウルシカルベは山々の動物たちを友とし、木(こ)の実、草の実を食べて、これまで人というものを知らずにただ一人で生きてきたのでした。

ある日のこと、白山の尾根(おね)の近くを歩いていると、どこからか美しい音が聞こえてきました。ウルシカルベが立ち止って耳を傾(かたむ)けると何やら今までに聞いたことのない音色(ねいろ)でした。
松風の音でもない。木の葉の落ちる音でもない。谷川の水音(みずおと)でもない。
不思議に思ったウルシカルベはあたりを見回しました。
「なんの音だろう。美しい音色だ。どこから聞こえてくるのだろう」
そうつぶやいて、ウルシカルベは音の聞こえる先を訪ねて、草を分け、谷を越え、峰の頂(いただき)へとむかいました。
そして、雪が残る奥深い峰の一角までやってくると、岩の上に天から舞い降りてきた天女(てんにょ)のごとく美しい少女が、一人座っていました。

少女は、草の葉を唇にあてて、一心に草笛をふいています。
その音色は空を駆(か)けめぐり、峰々にこだまして美しく響(ひび)き渡っていたのでした。
(天からの使いかもしれない)
ウルシカルベは、少女の美しさと草笛の美しい音色に心を奪(うば)われ、夢見心地(ゆめみごこち)で、目をつむったままその場に立ちすくみました。
ふと、音が止(や)みました。


ウルシカルベが思わず目を開けると、すぐ目の前に少女が立っていて、微笑(ほほえ)みながらウルシカルベのほうに手を差し出していました。
思わずその手を握(にぎ)ると少女はほんのりと頬(ほほ)を染めながら、黙(だま)って歩き出しました。
先を行く少女は、まるで鹿の化身(けしん)のように伸びた足で軽々と急流の谷を渡り、岩を飛び越しました。

そして、ある岩穴の前で立ち止まると、
「ここが私の家です。」
とウルシカルベを招き入れてくれました。
岩穴の中は広々としていて、あたり一面きらきらとまばゆく光り輝(かがや)いていました。
よく見ると壁(かべ)にはいろいろな宝石がびっしり埋(う)めこまれ、足元には琥珀(こはく)の畳が敷(し)いてありました。
(なんて美しいところだ。まるで夢を見ているようだ)
気がつくと、目の前に見たこともないごちそうが並べられ、どこからかゆったりとした音楽が流れてきました。

勧(すす)められるままにウルシカルベは、次々と出てくるごちそうを食べました。
少女は音楽に合わせて、あるときは悲しげに舞い、あるときはあでやかに舞ってみせました。
ウルシカルベは、たちまち少女のとりことなり、時の経つのも忘れて、楽しい時間を過ごしました。

三日ほど経ったころ、夜になって急に雨風がザアザアザアザアと激しく吹き荒れ、ゴロゴロゴロゴロっと地鳴りが始まりました。
するとなぜか、少女はさめざめと泣きだしました。
そしていきなり涙(なみだ)をぬぐうと立ち上がって言いました。
「早く早く、お逃げください、早く早く。遠くに遠くに。主(ぬし)が戻(もど)ってきます」
「誰だ、その主とは。誰なんだ」
ウルシカルベがいくら尋(たず)ねても少女は答えようとせず、かわりに一枚の鏡を手渡して言いました。
「あなたにこの鏡を差し上げます。どんな魔物であろうとも、この鏡をむければ、あなたに襲(おそ)いかかることができません。けれどあなたは、ご自分でこの鏡をのぞいてはいけません。決してのぞいてはいけませんよ」
なんのことやら分からなかったが、ウルシカルベは言われるままに岩穴の外に出ました。
「どこへむかえばよいのだろう」
外はまったく何も見えない、果てしない暗闇(くらやみ)でありました。
その真っ暗闇の中で、ギラリと不気味に光るものがいきなりあたりをビリビリ振(ふ)るわせました。

そして突然、ものすごい唸(うな)り声が襲いかかりました。
「うううっ、きさまあっ、よくもよくもおれの女房(にょうぼう)を盗(ぬす)みとったなあっ。憎(にく)らしいやつめえっ!」
ウルシカルベは、驚いて暗闇の中を夢中で走り出しました。
しかし走っても走っても、不気味な声が追いかけて来ます。
ああ、もうだめだと思って、ウルシカルベは、が高鳴る胸に手をあてたとき、懐(ふところ)の鏡に手が触(ふ)れました。

「そうだ。あの少女がくれたこの鏡を使おう」
ウルシカルベが鏡を取り出して、声のするほうにむけると、
「ギャアッ、ギャアッ」
と悲鳴にも似た恐(おそ)ろしい声がしました。
そして、あたり一面に炎を吹き上げたかと思うと、声はぴたりと止み、吹き荒れていた嵐や地鳴りもばったりとおさまりました。


気がつくと、白山の峰がうっすらと浮かび上がり、夜が明け始めていました。
ウルシカルベははっとわれに返り、まだ鏡を握りしめていたことに気づきました。
「そうか。この鏡のおかげで命拾いができたのか」
ウルシカルベはは少女の言葉を忘れてつい、鏡をのぞきこんでしまいました。
するとその鏡の中に映し出されたのは、髪の毛もひげも白く、顏中しわだらけの老人の顔でありました。

ウルシカルベは変わり果てた自分の姿を見て驚きのあまり体が固まり、そのままそこで岩となってしまいました。

やがて、その岩のまわりを取り囲むように、白い小さな花が咲きました。
それはまるで、白いひげを生やしたような花でした。

のちに人々は、自然を愛したウルシカルベの生まれかわりだと言って、その花を
【しらひげ草(そう)】と呼ぶようになったそうです。

《 わたしの感想 》

【しらひげ草(そう)】は、白い花弁が糸のように細かくさけている様子がひげに見えることから付けられました。
この物語は自然の美しさや植物の特徴などを通じてウルシカルベという名の心の美しい青年が興味深まる作品にしています。

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