北東北の岩手県遠野は、柳田国男が日本昔話の研究を開始した聖地です。そこで優れた昔話が数多く記録されています。

《 あらすじ 》
昔、あるところに、一生懸命働いてもまったく福がむいて来ない、じい様がおりました。
じい様は近くの清水観音に七日七夜(なのかななよ)のお参りに行ったけど、七日経っても何もおこりませんでした。
(観音様にお願いしてもだめなのか)
じい様はがっかりしながら、お堂の前の坂道をぶら-りぶらりとおりたそうです。すると、じい様の後ろからひょうたんが一つ、ころころ転がってきました。

「どこから転がってきたのかな」じい様が立ち止まって首をかしげて見ていると、そのひょうたんも転がるのを止(や)めました。
「これはまったく不思議なひょうたんだ。どれ、そんなら少し歩いてみよう」じい様が歩き出すと、ひょうたんも、じい様の後ろからついて転がってきました。
「これはまったくおかしなひょうたんだ。どれ、そんならおれに抱っこしてみろ」と言うと、ひょうたんはひょ-んと、じい様の懐(ふところ)に飛び込んできました。
じい様が慌ててひょうたんを受け止めると、中からひょっこりと二人の小さな子どもが飛び出してきたから驚きました。
二人の子どもは、じい様の驚いた顔を見てころころと笑いました。
「じい様、おれらは観音様から言われて、じい様のところに来たんだ。何でもして欲しいことを言いつけてくれよ。そうだね、今何が欲しいか言ってください」
じい様は、やっと合点がいきました。「そうか、これが観音様のお恵みなんだな。これはありがたいことだ。それではおらの大好物のお酒を少々もらおうか。それから団子だ。団子だ」

と言うと、二人の子どもは不思議なことに小さなひょうたんから、じい様の言うとおり、お酒と団子を取り出しました。じい様は大喜びで、お酒を飲み、たらふく団子をたべました。

いい気持になった、じい様は、二人の子どもの手を引き、そのひょうたんを肩に担(かつ)いで、ぶら-りぶらりと上機嫌で歩いて行きました。それから道で会った人たちに、ひょうたんの中からいろんな食べ物を取り出しては、ごちそうをしてあげました。
その不思議なひょうたんは、たちまち評判になり、じい様は方々の祝事や法事どきなどに、食べ物を出す支度を頼まれて、ちょっとの間にたいそうな金儲けをすることができました。

あるとき、じい様がいつものように道で会った人にごちそうをしていると、七頭の馬を引いた男が通りかかりました。そして、
「そのひょうたんをわしに売らないか。お金三百両と、この馬、七頭でどうじゃ」と、じい様に頼みました。
じい様は嫌(いや)がったけど二人の子どもが、「あんなにほしがっているんだから」と言うので、売ることにしました。

男は、三百両のお金と七頭の馬を置いて、盗むようにひょうたんを持つと、どこかへ行ってしまいました。
男は、そのひょうたんを殿様に献上(けんじょう)して、ご褒美に侍(さむらい)になり、村を一つもらおうとたくらんでいました。
早速、殿様のお城に行くと、「世にも不思議な宝ひょうたんを献上いたしたい」と言いました。
殿様も不思議なひょうたんのことは聞いていたので、大変喜んで、「よし、すぐにその者を連れてこい」と言いました。
男はお城の大広間に通されると、殿様の前でひょうたんからごちそうを出してみせることになりました。ところがどうしたのか、ひょうたんからは、ごちそうどころか一滴の雫(しずく)もでません。
火のように怒った殿様は、男にお仕置きをしてお城の外につまみだしました。
そうして男が命からがら里へ帰る途中、ひょうたんはあれよあれよという間に、空を飛んで、じい様のところへ戻っていきました。

じい様は帰ってきたひょうたんのおかげでたいそうな長者になり、二人の子どもと一諸に楽しい月日を送ったそうです。
《 わたしの感想 》
不思議な力をもった宝物を、呪宝(じゅほう)といいます。神様にお願いして宝ひょうたんを入手しました。
清水観音のご利益で主人公が長者になって終わるふるさとの昔話です。
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