
金持ちの主人が正月に見た良い夢を、買うと言います。
ところが奉公人の小僧は夢の話しをしません。
初夢を、他人に話してはいけない由来が楽しく書かれています。
《 あらすじ 》
昔、正月二日に見た初夢は、誰にも話さないほうがいいと言われていました。

ある年の正月、金持ちの家の主人が奉公人(ほうこうにん)たちを集めると、
「おい、お前たちはどんな初夢を見たんじゃ。一人一人聞かせてみなさい」
と、言いました。.

初夢は誰にも話さないほうがいいからと、初めはしぶっていた奉公人たちでしたが、
主人が、
「いい初夢の話を聞かせてくれたものには、小遣いをやろう。どうだ、聞かせてくれぬか」
と言うと、奉公人たちは次々と話し出しました。

ところが一人だけ、
「私は、話しません」
と言い張る奉公人がいました。
その奉公人が見た初夢は、二人の娘に手を引かれながら金銀の橋を渡るという不思議なものでした。

「みんな話しておるんじゃ。言ってもよかろう。話さなければ島流しにするぞ」
と何度主人がおどしてみても、奉公人はいっこうに話しません。

とうとう主人は怒(おこ)り出して、奉公人を本当にいかだに乗せて、島流しにいてしまいました。
それからいかだは、何日も何日も海の上を漂(ただよ)い、ある日、どこかの砂浜に流れつきました。

いかだの上で眠っていた奉公人は、目を覚ましてびっくりしました。

なんとたくさんの鬼たちが、奉公人の顏をのぞきこむように周りを取り囲んでいます。

「お、目を覚ましたぞ」
「親分に報告だ」
「よし、親分のところに連れていこう」
奉公人は、いちばん大きな体をした鬼の親分の前に突(つ)き出されました。

鬼の親分は、
「おい、お前はどこから来た。この鬼ヶ島に何をしにきたのだ」
と聞きました。
奉公人はしばらく考えると、こう答えました。
「鬼ヶ島と龍宮城では、どちらの宝物がすばらしいか、私は友だちと賭けをしました。友だちは龍宮城を選び、私はこの鬼ヶ島を選んで、宝物を見にやってきたのです」
鬼の親分が、
「ほほう、こんな鬼ばかりの島にやってくるとはいい度胸だな」
と言うと、奉公人は言いました。
「私はどうせ、もうすぐあなたさまに食べられる身です。死ぬ前にどうかひと目だけでも鬼ヶ島の宝物を見せてくださいませんか」
鬼の親分は、
「ひと目だけならいいだろう」
と金色に輝く箱の中から、、美しい鶴の模様の入った扇と、針を取り出しました。

「この扇は、«千里、千里»と唱えて一振りするだけで、空を千里飛ぶことができる宝の扇だ。またこの針で死んだ者を刺(さ)すと、生き返らせることができる宝の針だ」

鬼の親分は自慢げに言いました。
奉公人は、
「死ぬ前に、どうか一度だけ宝物を触(さわ)らせてくださいませんか」
と頼(たの)みました。
「触ってもよいが、一度だけだぞ」
と言って、鬼の親分が扇と針を奉公人に渡すと奉公人はすぐさま、
「千里、千里」
と唱え、宝の扇を一振りしました。
すると奉公人はあっという間に鬼ヶ島を飛び出して、空を千里飛びました。
それから見知らぬ村におりたった奉公人は、なにやら悲しそうに泣いている人に出会いました。
「どうかされましたか」

「実は、東の長者殿の一人娘が病にかかり、たった今死んでしまったんです」
奉公人が、
「私が、娘さんを生き返らせてあげましょう」
と言うと、すぐに東の長者の屋敷(やしき)に案内されました。

奉公人は死んでしまった娘の周りに屏風(びょうぶ)を立てて誰もみられないようにすると、鬼ヶ島から持ってきた宝の針を娘の腕(うで)に刺しました。
すると、娘はたちまち息を吹き返しました。
東の長者はたいそう喜んで言いました。

「ありがとうございます。あなたは娘の命の恩人です。どうか、娘の婿(むこ)になってください」
こうして奉公人は娘の婿になり、東の長者の屋敷で暮らし始めました。
しばらくすると、今度は川のむこうにある西の長者の一人娘が病にかかり死んでしまいました。
東の長者の娘が生き返ったことを聞いた西の長者は、奉公人に頼みにきました。
「どうかどうか、そなたの力でうちの娘も生き返らせてください」
奉公人は西の長者の屋敷に行くと、鬼ヶ島からもってきた宝の針で、死んだ娘の腕を刺して生き返らせました。

西の長者はたいそう喜んで言いました。
「ありがとうございます。あなたは娘の命の恩人です。どうか娘の婿になってください」
奉公人は二人の娘の婿になるわけにいかないから帰ろうとするが、西の長者はしきりに引き止めます。東の長者は、奉公人がいつまで経っても帰ってこないので、心配して西の長者の屋敷に迎えにいきました。

けれど西の長者は、奉公人を帰そうとはしません。
東の長者と西の長者の、長い長い話し合いが続きました。
やがて東の長者が言いました。
「なあ、西の長者殿、婿殿は両家にとって命の恩人じゃ、月の半分はうちの婿になり、もう半分はそちらの婿になるということでどうじゃ」
それを聞いた西の長者も、
「それはいい、妙案だ。そうしよう」
と喜びました。

それから東の長者が、
「婿殿が喜んでわしらの家に来てくれるように、川に金の橋をかけましょう」
と言うと、西の長者も、

「それなら婿殿が喜んでわしらの家に来てくれるように、川に銀の橋をかけましょう」
と言いました。
こうして二人の娘の婿となった奉公人は、月の半分は東に、もう半分は西にと、二人の娘に手を引かれ、金銀の橋を渡って通うようになりました。
誰にも話さなかった奉公人の初夢は、こうして正夢になったそうです。
《 わたしの感想! 》

日本では初夢(年初めに見る夢)には特別の意味があるといわれています。
一富士二鷹三茄子のように幸運のシンボルが登場する夢をみると、縁起がいいとされています。
【幸運な初夢】の奉公人は、素直でありながら相反する頑固さをもつています。
これも、必要ではないかと思いました。
☆今年も宜しくお願いいたします。