
(トムを、ほめる歌)
トムさん、おまえは、もう九つ。長さは、前後の両足を、ぐっと伸ばて、障子のはば。
重さは、おなかペコペコのときで、一貫五十です。
ネズミなんかは、相手じゃない。ウサギもヘビも、くるならこい!なんのおそるることやあらん。トムこそ、お山の大将です。
でも、覚えてはいませんか、小鳥のように手のひらや、人形の布団で寝たことを?
さあ、陽だまりの縁側で、タヌキ寝入りなんかしてないで、ちょっとこっちへおいでなさい。
ここに、あなたの本があります。
《あらすじ》(下)
ふつう、ネコは、人につかないで、家につくと言われています。主人が引越しても、ネコだけ、もとの家に残っていたという話を、よく聞きます。

けれども、トムは違いました。トムは、人間と一諸に歩きまわるのが、好きでした。お母さんたちと一諸に、一日、畑に出て、肥しをけちらして「お手伝い」の振りをします。ときには、家からアメ玉を入れた袋を首にくくりつけて貰って、畑の人たちに持って行くこともありました。
これも、トムの「お手伝い」の一つでした。
けれども、山に来るお客さんを一番びっくりさせたのは、トムのご飯の食べ方です。家の人が、ご飯を食べ始めると、トムは急いで自分のちゃぶ台の上に座りました。

近所の人たちは、「山のネコは教育がある。」と言って感心するようになりました。
皆が、山に引越して来てから、三度目の冬、トムが来てから、二度目の冬が来ました。去年のクリスマスに、皆は約束したのでした。来年は何もお金をだして買わないことにしましょうと。
そして、心がけをよくして、早くから準備をし、まごつかないようにしましょうと。
けれども、一年たってみると、心がけ良かった人は、一人もなかったことが分かりました。今頃になって、こそこそ、こそこそ、陰でやっているのですから。アキラさんが、何げなく、ひょいと押入れをあけると、「あ、その風呂敷は、あけないでね。」と、おばさんの声がかかりました。また、夜、うっかり奥の襖を開けると、「見ちゃ、いやァ-」と寝ているはずのトシちゃんが叫びだすことがありました。
途方に暮れているアキラさんに、ある日、お母さんが、(荷縄)をなって、「御一同様へ」として、皆に贈ればいいじゃないかと、こっそり教えてくれました。

それから、時々、物置にいって、少しずつ、(縄)をない始めました。何しろ、隠れてやるのですから思うように、ドン!ドン!と力を入れて、(わら)を討つことが出来ません。寒くって暗い物置で、震えながら、二尺ばかりになった(縄)は、まるで絵でみるハラワタのようによじれていました。
アキラさんは、それっきり、いやになって、放り出してしまいました。
いくら、のんき者のアキラさんだといっても、手ぶらでは・・・残る道は、ただ一つ、山にかけた(罠)に、ウサギがかかっていてくれることです。アキラさんは、二十三日お昼過ぎ、雪帽子をかぶると、スキ-を抱えて外に出ました。トムが喜んでついて来ました。

家の前の坂をおりたところで、スキ-をはきました。スキ-をつける溝の上を、トムはトコトコついてきます。麦畑を越え、一の沢を越え、二の沢に出ました。途中の(罠)はみんな、からっぽです。「ちえッ。」と、舌うちをして、二の沢を越えようとしたとたんです。直ぐ、足もとからバタバタという、凄い物音が起こってアキラさんは、尻もちをつきました。
パンと弾かれたように、トムが飛び出しました。トムの下から、茶色のかたまりが、バッと、重い羽音をたてて、飛び立ちました。キジです!

口あんぐりあけて、アキラさんは見送りました。キジは、なぜか、遠くまで飛ばす、直ぐ右手の、南面のカヤ野におりました。アキラさんは、(わっと)叫んで、スキ-を脱ぎ捨て、坂を転がりおりて、カヤ野をのぼりました。けれども、トムが、先でした。アキラさんが、そこら!と健闘つけた場所に、トムは、飛び込んでいきました。「ギヤッ!」と言う叫び声がして、トムのからだが、飛び上がりました。「いたぞう!」叫ぶなり、アキラさんはキジにつかみかかりました。アキラさんは、もう無我夢中で、暴れているキジにとびかかっていきました。
「ギャ-オ!」トムも飛び込んでいきました。アキラさんは、飛びつくトムをけ飛ばし、きじをつかんで走り出しました。夢ではないでしょうか。アキラさんは、キジを抱きしめていました。
「キジとったァい!」「わーッ、ワーッ!」という声が、家の方からも聞こえてきました。
酔ぱらったように転がりながら走るアキラさんに、皆、手をふり家の縁側で、お裁縫に来ている、娘さんたちが、山からの叫び声で、飛び出していたのです。息絶え絶え、最後の難関、家の前の坂をのぼりました。手に高くキジをささげながら・・・
「うわァ‼」一段と高い、かん声があがり、家の人たちは笑いくたびれ、大部分の人がお腹をかかえて、座り込んでいました。
「アキラちゃん、でかァした!」ハナおばさんの、笑いでいっぱいの、金切り声が、他の笑い声よりも高く、響きました。安心して、ため息ついた、アキラさんはへたへたと、皆の前に座り込みました。そのとき、バッ重い羽音がして、キジがアキラさんの手を離れて飛びたっていました。「ばか!逃げられたッ!」お母さんの雷声が、爆発しました。

皆が、「あっ。」と声をあげたとき、(ぁぁ!)茶色のキジの後から、細長い、まっ黒いものが、音もなく、流れるように、飛び上がっていました。トムは空中を飛んでいました。
キジの飛んだほど遠くへ!トムのからだは、上り坂の途中で、キジに重なり、二つは、どさりと、土手に落ちました。
「うわァ!」また、かん声が上がり、盛んな拍手がおこりました。前より十倍も盛んな拍手・・・・でも、今度のは、トムのための喝采でした。

キジを引きずり、引きずり、トムは家に入ってきました。
その次の晩、夕ご飯がすむと、皆は、それぞれ、秘密の場所に引っ込んで、贈り物の準備を、しました。準備は、十五分です。そして、十五分が終わると、皆は、笑いだしたいのを我慢しながら、おかし気な包を持って、コタツのまわりに集まりました。

それぞれ、手作りの品者のプレゼント交換です。皆は、一つずつ、贈り物の出てくるたびに、ばかみたいに笑い崩れていましたが、いよいよアキラさんの番がくると、何が、でてくるか、およそ、分かっていたので、なおのこと、大笑いです。
第一、贈りものをだす番のアキラさんが「エヘヘ、エヘヘヘ。」で中々、口がきけません。やっとのことで、アキラさんは、自分の前に置いてある、風呂敷包みから、お盆を一つだしました。お盆の上には、綺麗なキジのハネが、リボンで縛ってありました。
「エヘヘヘ・・・もう中身は、今日のご馳走になって、皆さんのお腹の中に入っていますが・・・エヘヘヘ・・・僕とトムから・・・御一同様へ・・・」大喝采がおこりました。
そして、最後に御一同様から、トムへ、首わ(古い子犬の首わ)が贈られました。さっきから、アキラさんの膝でぐっすり眠っていたトムは、

「一体、なんの騒ぎじゃいな。」という顏で、トシちゃんから首わをつけて貰うと、また、くるくると丸くなって、寝てしまいました。
《わたしの感想》
北国の山あいに、開墾地で暮らす生活。全くの素人がお百姓になって、ウシや、ヤギを飼ったり、田植えをしたり、薪をあつめたり、並大抵のことではないと思います。でも、ネコとのユーモア-あふれる日常、山の家の人たちの助け合っていく生活。
なぜか、羨ましくもあり、読んでいて心温まりました。
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