
コロポックルとは小人の神さまのことです。
人なっこくって、人間に喜んでもらうことが大好きなコロポックルは、一枚のふきの葉の下に何人も隠れているといいます。
おしゃべり好きな小人です。しかし、どんなに愛嬌があって可愛らしい小人でも、神さまであることは
変わりはありません。
いったん怒ると、その祟(たた)りはすさまじいことになります。この【コロポックル】は、アイヌの人たちが伝えたお話です。
《あらすじ》
昔、ふきの葉の下には小人が住んでいると言われていました。
小人は、一つのふきの葉の下に、五、六人は隠れてしまうというくらい小さな体で、人間からは「ふきの下に住む人たち」という意味でコロポックルと呼ばれていました。

コロポックルたちは雨が降ると、よくふきの葉の下に逃げ込んでいました。
それからおしゃべりを始めて、だんだん夢中になって、雨が止(や)んでも気づかないでいるから、いつもすぐ人間に見つかってしまうのでした。
そんなコロポックルたちは、人間と仲良くなるのが大好きでした。たまに魚を捕っておいしいごごちそうを作ると・・・
「ごちそう作ったよ」「ごちそう作ったの」
「これを人間のところに持っていったら喜ぶでしょうね」「うん、きっと喜ぶ」
「そうだ。そうだ」「じゃあ、持っていこう」
「うん、持っていこう」「そうだ。そうだ」
「何に入れて持っていくの」
「何がいいかな」
「このおわんに入れて持っていこうか」
「うん、おわんに入れて持っていこう」
「そうだ。そうだ」「じゃあ、持っていこう」
コロポックルたちは、みんなでごちそうを入れた、おわんを担(かつ)ぐと、人間の家に運びました。

「どこに置くの」
「人間に見つからないように、こっそりおくんだよ」
「じゃあ、入口のござの下にこっそり置けば、人間には見つからないよ」
「よし、ござの下に、こっそり置こう」
「そうだ。そうだ」
コロポックルたちは、、ごちそうを入れたおわんを家の入口にあるござの下に置きました。
それからみんなで隠れて人間がいつごちそうを食べるかこっそりのぞいていました。
人間は、コロポックルのおしゃべりがぜんぶ聞こえているから、コロポックルたちが来たことにすぐ気がついていました。
だけど聞こえないふり、見えないふりをするのが礼儀だから、笑いたくなるのをぐっと我慢(がまん)して、神さまをお迎えするときのような真面目な顔をしていました。
そしてコロポックルたちがおわんをござの下に入れ、どこかに隠れるのを待ってから、それを取り出すと、これは優しい、優しいコロポックルたちからの贈りものだからと、おわんを高く上げて礼をしました。
それを見たコロポックルたちは、大喜び。
「おわんを見つけたよ」「うん、おわんを見つけたね」
「ああ、手に持ったよ」「うん、手に持ったね」
「ほら、あんなに高く上げているよ」「おお、あんなに高く上げている」
人間の様子に満足したコロポックルたちは、見つからないように、みんなでサッと家に帰るのでした。

「やったあ」「やったぞう」
「喜んでいたね」「喜んでいたぞ」
「よかったね」「うん、よかった。よかった」
こうしてコロポックルたちと人間の幸せな日は、毎日、毎日、何百年もの間続いていました。
ところがあるとき、ある村に悪い人間がいて、コロポックルたち捕まえて、いたずらしようと考えました。
(今日こそはコロポックルを捕まえてやろう、あいつらは、すばしっこいからな)
その人間はいつもコロポックルたちがごちそうの入ったおわんを置いていく入口のござの近くでまちかまえていました。

やがてござがちょっと持ち上がったときに、(よし、今だ)と下にいたコロポックルの一人をパッと捕まえました。
コロポックルは大きな人間の手でギュウと捕まえられたからとても逃げられません。
涙が出るくらい苦しいのに、その人間はちっとも離してくれませんでした。
やがて人間がちょっと手を緩めた隙(すき)に逃げ出すと、コロポックルは悲しくって苦しくって、大声で泣きながら家に帰って行きました。
その話を聞いたコロポックルの親方はとても怒って、すぐに人間のところに行きました。

「この村の人間は、おれたちの恩を忘れたのか。川と海の恵み、木と草の恵み。
それはみんな、おれたちが、美しい山や丘や海を守ってきたからだ。
もうおれたちは海の向こうに行くぞ。ここの村と山と丘はみんな焼けろ。海も荒(あ)れろ。みんな枯(か)れろ」
親方はそう言うと、コロポックルたちをみんな連れて海の向こうに渡ってしまいました。
するとたちまち、その村のあたりの川には魚が住まなくなり、海は荒れ、山も丘も燃えて、人間はもう、住めなくなってしまったそうです。
《民話 昔ばなし》
人々が伝えられてきた民話にはそれぞれの歴史があります。でも、土地によって風俗や生活習慣など言葉の違いがあります。人類は文字が記される遥か以前から話を伝えてきました。
民話は、果てしなく夢みる自由を与えてくれます。

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