読んだ感想!

★③赤毛のアンという女の子
(お茶の招待のさんざんな結末)
十月の土曜日の朝のこと、アンが真っ赤に紅葉した
カエデの枝をかかえて家にもどったとき、マリラはうるさく
しかりました。
「あんたは自分の部屋になんでもかでも、持ち込みすぎるのよ。
ほら、葉をそこいらに散らかしちゃ駄目じゃないの」
ところが、ひとしきりお説教がすんだあとで、こう言ったのです。

「今日の午後、カーモディ-の慈善協会に出かけるからね。
帰りは暗くなるので、マシュ-とジェリ-(畑を手伝っている少年)に
夕食の支度をしなさい。それから午後ダイアナを呼んで二人でお茶を
飲んでもいいよ。」
アンは叫びました。
「わっ、マリラすてき。やっぱりあなたは、ものを想像する力があるのよ。
でなければ、わたしがどんなにそれをしたがっていたかわかるはずがないもの。
なんだか大人になったみたい。あのバラのつぼみの枝のお茶器つかっていい?」

「とんでもない。とんでもない。あれは牧師さんがみえたときか
慈善協会のときしか使わないの。かっているでしょ。
古い、茶色のを使いなさい。そのかわり、サクランボの砂糖漬けの入った
黄色の壺をあけてもいいよ。それからフル-ツケーキと
ショウガクッキ-とビスケットも食べていいよ。」
「客間にすわっていい?」
「いけません。あんたとあんたのお客には居間で充分です。だけど、先だって
教会の集まりがあったときの使ったキイチゴのジュ-スが、瓶に半分
ばかり残ってるから二人でおあがり。居間の戸棚の二段目
にあったからね。」
アンは、ダイアナにお茶の招待のことを知らせダイアナは一番上等の服の
次の服を着て、しゃなりしゃなりと玄関から入ってきました。
アンも上から二番目の良い服をきて、二人は初めて会った人のような、、
すましこんだ握手をしました。
それから二人は大人そっくりの挨拶をかわし、りんご畑にいってリンゴを食べ
ながら心ゆくまでおしゃべりをし、この後キイチゴジュ-スを飲もうという
ことになりました。

アンが戸棚の二段目を探しましたがありません。
いちばん上の棚の奥にジュ-スらしいものがあり、アンはこれをコップと
一緒にぼんにのせてテーブルに運びました。
「さあ、ダイアナ。ご自分でどうぞ。お好きなだけ召し上がって下さいな。
わたしは、リンゴを頂きすぎて、今ちょっとほしくないの。」

ダイアナはすすめられるまま自分でつぎ、きれいな赤いキイチゴジュ-スの色を
ほれぼれと、眺めてから上品にこれをすすりました。
「とても美味しいキイチゴジュ-スだわ。こんなに美味しいものとは知ら
なかったわ。」
アンは「お気に召して、本当に嬉しいわ。ね、好きなだけ召し上がってよ。
家事を預かっているものは、あちこち仕事が多くってねぇ。」

アンが台所からもどってきたときダイアナは二杯目の
キイチゴジュ-スを、飲んでいるところでした。
直ぐ三杯めにうつりました。
「こんなに美味しいのってはじめて。リンドのおば様も、ご自分のを随分
自慢していらっしゃるけれど、くらべものにならないわ。」
「そう、私もマリラのは、リンドのおば様よりずっと美味しいんじゃないかって
思いますの。だってマリラはお料理の名人なんですもの。わたしに教えてくれるって
いうけれど・・・・・あら、ダイアナどうかした?」
ダイアナが、ふらふら立ち上がり、もう一度、椅子に腰をおろして
「なんだか、とても気持ちが悪いの。うちに帰るわ、わたし。」
「駄目よ。だってまだこれからお茶なんですもの。直ぐ用意するから。」

アンはすっかり取り乱して叫びましたが、ダイアナは、帰る、帰ると言う
ばかりです。
アンはもう、ほとんど泣き声でした。
「お茶を飲まずに帰るお客なんて聞いたことがないわ。
ね、しばらくソファに横になって、フル-ツケーキとサクランボの
砂糖づけをもってくるからね。お願い、お茶がすむまでいてよ。
ね、どこが悪いの。」
「ひどく目まいがするのよ。」
本当にダイアナは足もとがふらふらしていました。
あまりのことにアンは目に涙をうかべながら、ダイアナの帽子をとってやり
かかえるようにして
バ-リ-家の家の裏の垣根の所まで送っていきました。
それから泣きながらグリ-ン・ゲイブルズにもどって、マッシュ-とジェリ-の
ためにお茶の用意をしました。
その翌日の月曜日午後、マリラがリンド夫人の所にアンを使いに出すと
いくらもたたないうちにほっぺたを、涙でぬらして台所に駆け込むなり
ソファに身を投げ、肩を震わせているのです。
マリラは訳が分からずアンに尋ねると
「リンドのおば様が、今日バーリ-のおば様の所にいったら、アンが土曜日に
ダイアナを酔わせて、だらしない恰好で家にもどらせたって、すごくおかんむり
なんだって。アンはどうにもならない性悪娘だから、もう二度とダイアナと
遊ばせないって。わたし、もう絶望だわ。」
マリラはしばらくは、ぽかんとしていましたが、やがて驚きから覚めたのか、
アンに聞きました。
「いったい、ダイアナに、あんた何を飲ませたんだね。」
アンは、なおすすりあげながら、
「キイチゴのジュ-スだけよ。キイチゴのジュ-スに酔う人がいるなんて。
いくらダイアナみたいに大コップに三杯飲んだからって。」
「何を言っているのよ。」
マリラは居間の戸棚の方に来て気がついたのですが、棚の上にあるのは三年前に
作ったスグリ酒なのです。
このとき、同時にマリラは思いだしたのです。
キイチゴのジュ-スは地下室にしまいこんでいたのでした。

マリラは酒瓶を片手に、抑えきれぬ笑いに顏をひくひくさせながら、もどって
きました。
「アン、あんたはまあ、やっかいを起こす天才だね。キイチゴのジュ-スの
かわりにスグリ酒をダイアナに飲ませちまったんだよ。自分でも違いが
分からなかったの。」
「わたし、ただおもてなしに一生けんめいで自分では飲まなかったものだから。
ダイアナは酷く酔って何を尋ねても馬鹿みたいに笑うだけでそのまま
何時間も寝込んでしまったんですって。おば様が息をかいでみて酔っている
ことがわかったのよ。バーリ-のおば様は、アンがわざっと飲ませたのだと
頭から決めてかかっているんですって。」
「キイチゴジュ-スだとしても、大コップ三杯も飲のめばいい加減気持ち悪くなるさ。
これ、泣きなさんな。あんたに罪があるわけじゃない。こんなことになって
気の毒ではあるけれど。」
「アン、もう泣かないで大丈夫だよ。」
マリラが、バ-リ-夫人に説明にいきましたが自分が考え違いだったことを
思い知らされました。

マリラは家に入るなりアンに言いました。
「まあ、あんなわからずやの女みたことがないね。全部間違い
から起こったことで、アンに責任はないと言っても信用しないでね。
私が作ったスグリ酒のことを、くどくどぐずぐず言うんだよ。
なんの害もないと言ってるのに、分からないから言ってやったよ。
一度に大コップ三杯も、うちの娘がそんな意地汚いことを、したら
平手打ちで正気づけてやるって言ってやったよ。」
これで、何もかもおしまいです。
アンはバーリ-夫人の所に行きましたが、ぜんぜん相手に
されませんでした。
「あなたはダイアナの友だちにふさわしい娘さんじゃありません。
うちに帰って、おぎょうぎよくしていらっしゃい。」
そう言われただけでした。
次の日の午後アンは台所の窓際で継ぎ物をしていました。
ふと目をあけると《ドライアドの泉》の所で手招きしているダイアナの
姿が見えました。
慌ててアンは家を飛び出し胸には嬉しさと驚きが入りまじったまま、谷の
方に駆け出しました。

ダイアナが、「やっとのことで、アンにさようならを言うのに十分間もらってきたの。
今、お母さん時計を見て時間はかっているのよ。」
「十分で永久の別れをつけるなんて、無理だわ。ねえダイアナ、どんなに親しい
友ができても、若き日の友を忘れずにいてくださる?」
「もちろんよ。それに、わたし、アンのほかに腹心の友などもたないわ。
もとうとも思わないわ。アンを愛したように、ほかの人を愛するなんて
できないもの。」
アンは両手を握りしめて叫びました。

「ただ気にいってくれているだけかと思っていたの。わたし、だれかに愛される
なんて考えてもみなかったもの。今までわたし、誰にも愛されたことがないのよ。
なんてすばらしいんでしょう。ねえダイアナ、もう一度いってみてくれない。」
「あなたを全身全霊をもって愛しているわ。これからもずうっとよ。」

ダイアナは涙をぬぐって「何か切るものをもっている?」
幸い継ぎ物をしていたときに使っていたはさみが、アンのエプロンのポケットに入って
いたので、ダイアナの真っ黒い巻き毛はアンの手におさまりました。
そして二人は振り返り振り返り、別れたのです。
★④赤毛のアンという女の子
次回(思いあらたに・アン看護に走る)
宜しくお願いいたします。
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