【二階】松本清張を、読んだ感想!

【二階】松本清張の傑作短編小説です。

ここに描かれているのは、ごく平凡な、

どこにでもいるような人物たちです。

人間の業の怖さ

松本清張の人物描写が迫ってきます。

《あらすじ》

印刷業の竹沢幸子の夫、英二は結核のため、

2年近く、海近くの松林の中にある療養所に入院しています。

妻の幸子が印刷業を切り盛りしています。

印刷業の休みの月2回(1日と15日)東京から2時間かけて

夫の見舞いに行きます。

快復の見込みのない夫は、

入院生活での倦怠と絶望を感じるばかり。

見舞いに行っても、ここ、二・三ヶ月は、仕切りに

幸子に「家に帰りたい」と懇願します。

幸子は、15年間英二と一諸にいて、

一度言い出したら聞かない性質を知っていました。

幸子には子供がいませんでした。

意識のどこかで、結婚して間もない錯覚を

揺曳(ようえい)していました。

それが、美点でもあり落ち度でもありました。

幸子が英二を退院させたことは、

落ち度であったようです。

医師は、不機嫌でした。

余りに無謀だと言いましたが、

医師のあいまいな話し方、

はっきりとしたことを言わない態度に

幸子に夫を連れて帰る決心を固めさせました。

英二の心情に、負けた形でもありました。

夫は我が家に帰って、目を細めて手を打たんばかりに

喜びました。

階下からは機械の音、職人たちの話声が聞こえます。

夫は「この機会の音、職人たち話声、これだよ。僕が夢みたものは・・」

と、はしゃいでいました。

くぼんだ眼下に疲労が重なって

幸子は病院に連れていきたい思いにかられました。

夫は目を開けると笑い、唇をある形にしました。

それは2年ぶりでした。

幸子には印刷業の仕事があり

夫を自宅療養切り替えるには住み込みの看護婦を

雇うことにします。

医師は、近所の関口医師に

3日に一度の往診をしてもらうことにします。

看護婦派出所に、電話をして

付添いの看護婦を頼みました。

早速、1時間後に坪川裕子はやって来ました。

看護婦・坪川裕子は経験も長く、

幸子とほぼ同じくらいの年齢(35~36才)の年で、

子どもは田舎の実家に預けているとのことで、

夫は4年前に先立たれています。

坪川裕子は、背が低く愛嬌のあるクリクリした目で

色が白く若い頃はかなり綺麗だったと思われます。

今は、髪が少なく目の下にはたるんだ皺(しわ)があり

年相応になっています。

寝ている英二は二階なので幸子と坪川裕子は

二階に上がり、

ここで英二と、坪川裕子は、

幸子の気が付かないことが、二人の遭遇した視線に

起こりました。

坪川裕子は、愛嬌のある目をクリクリさせて

一つ一つやることに誠意があり、

親身になって世話をして、真心が伝わってきます。

近所の関口医師も

優秀な坪川裕子をみて、下手な医者にかかるより

安心して任せられると、幸子に言いました。

幸子は、印刷業の仕事が忙しいので、

あまり夫の寝ている二階に上がっていく

暇がありませんでした。

それは確りした看護婦・坪川裕子がいるので

安心して仕事に専念出来ました。

しかし次第に、

自分の知らない時間(空間)を過ごす二人の存在が

大きく気になりはじめました。

なぜか、二階に上がっていくのが

躊躇(ちゅうちょ)してしまう幸子でした。

小さな工場からは、印刷機械の音が響いているので

二階にあがるのは、それに負けないように

足音を立てなければなりませんでした。

そうしなければ、、いけないような、

必要のない遠慮がでてきてしまいます。

関口医師は往診の時、たった一度だけ

「病気は変化はないでのすが、ご主人はだんだん

お元気になられますね。気持ちが大切ですよ。」

と言いました。

幸子の知っている夫は、

いつも不機嫌な顔をしていて、

笑った顏、表情など、みたことがありませんでした。

坪川裕子は、幸子がいるときは、必ず席を外します。

幸子が英二に、唇を重ねるようなことをすれば、

何かものが落下してきて、受け止めているようなものでした。

あるときは、幸子が唇を求めると首をふるようになりました。

夜は部屋を両ふすまを開けて寝ますが、

看護婦の坪川裕子が、夫の英二に近い方に寝ています。

看護婦だから、何かあった時には対処できるということですが

妻のやるべきことを、坪川裕子はそれ以上のことを、奪っていました。

夜の二人の会話は、ある意味では

夫婦間の間にあることを行うような雰囲気を

漂(ただよわせて)います。

幸子は、寝ていても冷めた、耳をふさぎたくなるようで

想像は悪い方向に向かっていきます。

ある晩夜中に、目を覚ますと看護婦が

夫に薬を飲ませているのですが、話す言葉が明瞭ではなく、

ものを言うたびに舌がピタピタしていました。

幸子は、身を覆いたくなりました。

幸子はどうしても、疑惑がおきてしまいます。

坪川裕子は、美人ではなく若くもないし、

余りに何食わぬ顔でありすぎたのです。

感情がなさすぎたのです。

ある日のこと、来客があり、

どうしても夫に相談しなければならないため

二階に足を踏み鳴らして上がりました。

そのとき、不意に襖を開けて坪川裕子が出てきて、

坪川裕子の頬から涙が流れているのを、幸子は見逃しませんでした。

夫は目を閉じて眠った格好をしていましたが、眠ってはいませんでした。

目瞼が薄赤くなっていました。

幸子は、坪川裕子を座敷に呼び

「坪川さん、都合で、今日限りで」

と伝えますと、坪川裕子は両手を揃えて頭を下げ

「後始末もありますので、お給金は要りませんので明日のお昼まで

働かせて下さい」

と、きっとした態度が炎のように全身からあふれ出ているようでした。

翌日の昼過ぎになっても、二階から降りて来ません。

ある予感が駆り立て、膝が震えだし、幸子は青い顏をして

二階に走り上がりました。

襖を開けると

夫と坪川裕子が頬をよせて布団をかぶっていました。

行儀のいい恰好ではなく乱れていました。

幸子は布団をめくると二人の口からは泡がでて

顏をよせあていました。

英二と、坪川裕子は睡眠薬を多量に飲んで自殺をしていました。

夫と坪川裕子の遺書が二つありました。

夫の平静でない遺書には

「・・・・・・坪川裕子は幸子と知り合う前に恋人だった。

事情があって結婚できなかった。

その後、お互いに結婚をした。

僕は、坪川裕子が付き添い看護婦としてきたとき、僕は仰天し、

裕子は息が詰まるほど驚いたと言った。・・・・・

結婚できなかった愛情が

燃え出し生きるためより死んだ方が・・・・・」

幸子は手紙を途中でまだ読んで投げ出しました。

遺書を破り火鉢で燃やしました。

坪川裕子の遺書は、読む必要がないのでそのまま燃やしました。

幸子は取り残されました。

妻は取り残されました。

言いようのない悲しみが湧いてきました。

死んだ者が負けは、この場合はあてはまりません。

傷を受けているのは、生きているものだと。

幸子は夫の横にいる坪川裕子を、抱えようとしましたが

重すぎて、引きずりながら遠く離れたところに

手を組ませてあげました。

夫の横があき、ここが幸子の場所になり

夫を、略奪した坪川裕子ではなく、

幸子が夫の横にいき、睡眠薬を飲みました。

略奪したのは、実際は幸子かも知れない。

むろん、ことごとく睡眠薬を飲んでしまった幸子には

懐疑はないのかも知れない。

《私の感想》

【二階】は物語の展開が迫ってくる思いでした。

夫・幸子・坪川裕子・3人の関係が哀れと、感じてしまいました。

二階とは境界線のようです。

夫と坪川裕子二人きりの世界。妻・幸子の疑惑。

人間の心の深いところを突いた物語だと思いました。

松本清張(まつもと・せいちょう)

明治42年、福岡県生まれ

平成4年没

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