
ギルバ-ト・プライスの一途にアンを、思う気持ち
ギルバ-ト・プライスにとって、アンとの出会いが
運命的だったと思います。
ギルバ-ト・プライスにとって、アンは
かけがえのない大切な人なんだと思います。
★⑤赤毛のアンという女の子
(さいわいうすき白ゆり姫)
お話の先を少し急ぎたいと思います。
アンは、十三歳になりました。
もちろん、この二年間無事に過ぎた訳ではありません。
屋根の頂上を歩き、ころげ落ちて死にかけるという事件もありました。


髪を染めようとして大失敗、
おかしな緑色に変わった髪を全部切り、
丸坊主になって学校に通うという悲劇もありました。
ときが、何もかも押し流してしまいます。

学校では先生がかわって、ミス・ミュリエル・スティシ-女の先生が
授業を受け持っていました。
イギリスの詩人テニソンの詩〈ランスロットとエレ-ン〉を習いました。
それから半年ほどした夏のある日のこと、
このエレ-ンの大事件がもちあがったのです。
オ-チャ-ド・スロ-プの下の池のほとりで
ルビ-・ジェ-ン・ダイアナ・アン四人が遊んでいたのです。
はじめにエレ-ンの劇をして遊ぼうと言いだしたのはアンでした。
アンが話しているのは騎士道華やかなりしころ、アストラックの白ゆり姫と
いわれた美しいエレ-ンの悲しい恋の物語です。
もっとも、主役がアンに適役とはアンも思ってはいませんでしたが。

アンを入れて四人の娘たちは、船底に黒いショ-ルをしき、その上に
アンが寝て目を閉じ胸に両手を組みあわせました。
古くなった黄色のピアノ掛けをかけます。
白ユリの花もないので、変わりに青いアイリスを手に持たせました。
中々素敵な感じになってきました。
「これで全部すんだわ。さあ、私たちエレ-ンの動かぬ額にキスするのよ。」
ジェ-ンが言いました。
「《微笑むがごとくして横たわりぬ。》ってあるでしょ。じゃ、船押すわよ。」
娘たちに押されて、船は岬の船つき場を滑り出しました。
ここは、池といっても、ほとんど川といってもよい所です。

船が流れに乗って橋の方に向かいはじめると、三人の少女は一斉に
下手の岬に向かいました。
アストラットの城主と白ゆり姫の二人の兄の役をつとめた少女たちは、
今度はカメロットのアーサ-王と王妃ギニビアと騎士ランスロットに
ならなければならないのです。
暫くの間、船はゆるりゆるりと流れていき、アンはロマンチックな気分を
心ゆくまで味わっていました。
すると、何やらおかしなことが持ち上がったのです。
船底が盛り始めたのです。
船底にあいた大きな割れ目を見ました。
恐ろしい勢いで水がふきあげています。
船を出すときに引っ掛けた水中のするどいくいが、底板のつめものを
削りとったのでした。
アンが分かっていることは、自分がたいそう危険な立場にあることは直ぐに
分かりました。
下手の岬につく前に沈んでしまうことは明らかです。
(オールは?)
舟つき場においてきたままでした。
「ダイアナ!」アンは悲鳴に近い声で友の名を呼びましたが、水はどんどん
吹きあがってきます。
アンは唇まで真っ青でした。

さて、アンが橋の足におかしな格好
でしがみついた後、小舟は橋を
離れて流れていき、幾らも立たないうちに流れのまん中に沈みました。
一方、ルビ-とジェ-ンとダイアナは、その舟が自分たちの目の前で流れに
沈むのを見てアンも一諸に沈んだと思い暫くは真っ青になり、余りの
恐ろしさに動くことも出来ず立っていました。
やがて、金切り声を空に響かせ、森を抜けて走り出しました。
途中、街道を横切るときも橋の方は振り向きもせず、ひた走りに走ります。
アンの方は、危なっかしい足場に必死にとりついたまま、その三人の姿を見、
叫び声を聞いていました。
(助けは時期に来るだろう。それまで辛い辛抱だわ。)と思っていました。
だんだん腕も手首も痛くなって、もう、とても我慢出来ないと思った、ちょうど
そのとき、ギルバ-ト・プライスがハーモン・アンドルーズさんの
平底舟をこいで通りかかりました。

ギルバ-トはびっくりしたように、見上げました。
小さな白い顏の、怯え切った灰色の大きな目が、さげすむようにギルバ-トを
見下ろしているのを見たのです。
「アン・シャ-リ-、どうしてそんなところにいるんだ。」
と、大声で尋ねました。
答えも待たずに舟を橋の足によせ、アンに手をのばしました。
ギルバ-ト・ブライスの手にしがみついて舟の中に転げこむと、
ひとり怒(いか)りにもえていたのです。
このような場合に、威厳(いげん)をたもつのは、中々難しいことでした。
「一体、何がおきたのだい、アン。」
アンは助けてくれた少年の方は見向きもせず、そっけない声でこたえました。
「わたし達エレ-ンを劇にしていたの。わたしが舟に乗ってカメロットに
流れていく役になったんだけれど、舟が水もれしてきたので、あの、くいに
のぼっていたのよ。みんなが助けを呼びにいっている間にね。
あの、舟(ふな)つき場につけてくださらない。」
ギルバ-トはきげんよく舟つき場までこいでいきました。
アンは差しだす手を断ってひらりと岸に飛び移りました。
「どうも、お世話になりました。」と切口上(きりこうじょう)で誇り高げに言って
立ち去りかけましたが、ギルバ-トは、岸に飛び移りアンの腕を押さえて
言いました。
「アン、僕たち仲良くなれないか。あのとき、きみの髪をからかったりして、
本当にすまないと思っているんだ。ほんの冗談のつもりで、きみを怒らす
気はぜんぜんなかったんだよ。もう、随分昔のことじゃないか。今じゃ僕、
きみの髪、とてもきれいだと思っているんだ。本当だよ。ねえ、仲良く
しようよ。」

一瞬、アンの心は揺らぎました。
不思議な新しい気持ちが、胸の中に沸き起こるのを、どうすることも
できませんでした。
(恥ずかしさと情熱を交えたギルバ-トの、一心になったうす茶色の目、
なんて素敵なんだろう。)
そして胸の鼓動(こどう)が、今まで知らなかった高鳴りをしたのです。
けれども、次の瞬間、二年前のあの思い出が、自分のことを、
〈ニンジン〉と呼び教室に立たされて友だちのまえで恥ずかしい思いを
しなければならなかったことが、揺らぎかけていた心を
石のように固くしました。
「いいえ、わたし、あなたとは友達になりませんの、ギルバ-ト・ブライス。
なりたくないんですもの。」
冷たい声で言いました。
ギルバ-トは怒りを頬にあらわし、小舟にとびのると
「分かった。もう二度と頼まないよ、アン・シャ-リ-。ああ、それで結構だ!」
怒りをぶつけるようにオールをこいで、猛烈なスピ-ドで立ち去って行きました。
アンは、何か自分にも分からない後悔の気持ちがたい、もっとギルバ-トに
別の返事をすればよかったと、いう気がするのでした。
小道の途中で、今にも気が狂いそうな顏をして池にもどってくるジェ-ンと
ダイアナに会いました。
「おお、アン。もう、あなたが溺れてしまったとばかり思っていたの。
あなたをエレ-ンにしたのは私たちなんですもの。それでルビ-はヒステリ-を
おこしてしまって。おお、アンあなた、どうやってたすかったの。」
「橋の足につかまっていたのよ。そうしたらギルバ-ト・ブライスが
舟に乗ってきて、岸に運んでくれたの。」
「まあ、なんてロマンチックなんでしょう。これからはギルバ-トと口を
きくことにしたんでしょう。」
ジェ-ンがやっと息がおさまって言うと、普段の元気にかえったアンは
「いえ、いえ。ぜったいに口なんてきかないわよ。わたし、本当にあなた方をびっくり
させて申し訳ないと思っているの。何をしても自分が、仲の良い友だちが困る
ようなことを、しでかしてしまうのよ。ダイアナ、お父様の舟をなくしてしまったから
もう、二度とあの池では舟をこがせてはいただけないでしょうね。」
それどころか、この事件のことが分かると、バーリ-家でもカスバ-ト家でも
大変な騒ぎとなったのです。

アンは自分の部屋で思う存分心ゆくまで泣いたので神経がすっかり治まり
良い気分になったのです。
「思ったより早くまともな、常識人になれそうな気分なの。」
「だって今日の大しくじりで、ロマンチック病も、どうやら治りそうなんですもの。
わたしフルスピ-ドで、変わるから、マリラ、安心して見ていてちょうだい。」
「そう願いたいね。」
マリラが出て行ったあと、

黙って部屋の隅に腰をおろしていたマシュ-が、アンの
肩に手をおいて
はにかみながらささやくように言ったものです。
「おまえのロマンス、やめることはないよ、アン。すこしぐらいは
よいものだ。むろん、ゆきすぎはいけないがね。すっかりは捨てなさんなよ。
すっかりはね。」
今回の登場人物
●ミュウリエル・ステイシ-先生(アヴォンリ-小学校初の女性教師
フィリップ先生の後任。)
●ルビ-・ギリス(アンの同級生で自他共に認める?学院一の美人。
ヒステリ-&泣き虫)
●ジエ-ン・アンドリュ-ズ(アンの同級生。クィ-ン組の一人。
家庭科が得意。)
★⑥赤毛のアンという女の子
次回は(補修クラスがはじまる。)
宜しくお願いいたします。
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