恐怖と知恵と行動力が交錯する【やまんば】(愛知県)ふるさとの昔話を読んだ感想!

昔話は、時代の流れとともに語り継がれ地域ごとに変化していきます。
でも、その時代や文化に合わせて形を変えながらもメッセ-ジや価値観は受け継がれています。【やまんば】の物語の奥深さも新たに再発見できると思います。

《 あらすじ 》

昔、あるところに、荷物を運んで暮らしを立てている男がおったそうです。
ある日、男は朝早くから、たくさんのシカやらウサギやら山菜やらを馬の背中に乗せて海辺の村まで運んでいました。
すべての荷物を運び終えると、あたりは陽が沈(しず)み、すっかり暗くなっていました。
(今日は荷物がたくさんあったから、遅くなってしまったな)
男は、晩飯に食べるサンマを馬に乗せて、暗い山道を急いで帰り始めました。

すると、
「おい、どこへ行く」
と声がしたかと思うと、突然目の前にやまんばが手を広げて立ち塞(ふさ)がりました。
「う、う、うわぁ」
やまんばの顏には深いしわが刻まれ、目は矢のように吊(つ)り上がり、口は耳まで裂(さ)けていて、それはそれは恐ろしい形相(ぎょうそう)でした。
「この道を簡単に通れるとおもうなよ」
そう言ってやまんばは、馬の背中からサンマを鷲(わし)づかみにして取ると、ペロリと食べてしまいました。
それからあっという間に馬までムシャムシャと食べてしまいました。

「うわぁ!た、助けてくれぇ」
男はがくがく震(ふる)えながら、もと来たほうへと一目散(いちもくさん)に逃げ出しました。どこをどう走ったか分からないまま、ふと気がつくと、一軒の家が見えました。

「助かった。あの家に泊めてもらおう」
男はふらふらと家の中に入りあたりを見回しましたが、誰もいないようでした。
やっとの思いで囲炉裏(いろり)のそばまで行き、ヘタヘタと座り込んでしまいました。

すると、なにやらおいしそうなにおいがします。男が囲炉裏の灰をかきわけると、中からこんがりと狐(きつね)色に焼けたもちが出てきました。

「こりゃ、ありがたい」
男は夢中になってもちを食べ始めました。
そしてすっかり食べ終わると、もちのかわりに近くにあった瓦(かわら)を囲炉裏の灰の中に入れました。
(もちを食べたら、のどが渇(かわ)いたな)
そう思った男が、囲炉裏にかかっている釜(かま)の蓋(ふた)をとってみると、あたたかそうな甘酒がたっぷり入っていました。

男は、甘酒をぜんぶ飲み干すと、甘酒のかわりに水を釜の中に入れました。
「ああ、腹いっぱいになったら、なんだか眠くなってきたな。どこか寝るところはないかな」
男が部屋の中を見回すと、天井裏にはしごがかかっていました。

「よし、あそこで寝よう」
男ははしごを登り、そのあと誰も登ってこられないようにと、はしごを天井裏にあげて横になりました。
男がうとうとし始めたころ、裏の戸ががらっと開き、誰か入ってくる気配がしました。
(この家の主が帰ってきたのかな)
と思った男は下をのぞいてびっくりしました。

下にいるのは、なんとさっきのやまんばではありませんか。
けれどいまさら逃げ出すことも出きません。
男は息を殺して下の様子をうかがいました。
やまんばは囲炉裏の中のもちを探しているようでした。
「なんだ、こりや。もちが瓦に化けとる」
それから釜の蓋を開け、
「なんだ、こりゃ。甘酒が水に化けとる」
やまんばの機嫌(きげん)の悪い声が聞こえてきました。
「さっきは食おうと思った男にも逃げられてしまうし、今日はまったくついとらん。もう、寝るとしようか」
天井裏に登ってきたら見つかってしまうと思った男はぶるぶる震えていましたが、
「なんだ、はしごまで無いのか。ええい、もういい、今夜は釜の中で寝ることにしよう」
と言って、やまんばは釜の中に入ってしまいました。

しばらくすると、
「グォ-、グォ-」
釜の中からやまんばの大きないびきが聞こえてきました。
(よし!今だ!)
男は静かにはしごをおろすと、そろりそろりと下に降りました。
そして、抜(ぬ)き足差し足で囲炉裏のそばまで来て、やまんばが寝ている釜に蓋をして上に大きな石をのせました。
それから、火打ち石をたたき始めました。
「やれやれ、カチカチ鳥の声がする。もう、朝だ。起きるとしようか」
釜の中のやまんばが寝ぼけた声で言うと、男はささやくような声で、
「なあに、カチカチは、秋風が栗の実をたたいている音だろう」
と言いました。
やまんばは、
「そうか、そうか、もうちょっと寝るか」
と、また寝てしまいました。
やがて男の起こした火は薪(たきぎ)に燃えうつり、釜をあたため始めました。
だんだん釜が熱くなってきたのでびっくりしたやまんばが、ふたを開けようとしますが、石が重くてびくりとも動きません。
「開けてくれ、開けてくれー」
やまんばは最初のうち釜の中で暴れていましたが、やがて静かになりました。
男が石を下ろし、釜の蓋をそっと取ってみると、やまんばはすっかり溶けてしまって、真っ赤な血がいっぱいたまっていました。

それを家の前にあったソバ畑に捨てると、ソバの根元はみるみるうちに赤くなりました。
ソバの茎が赤いのは、そのときからということです。

《 わたしの感想 》

神秘的な伝説が残るソバの赤い茎。ソバの茎は秋に向かい赤い色の濃さが、増します。
今の時代とは違いSMSのない時代。
人々は、この赤い色に神秘さを感じました。
全国に赤い茎にまつわる、伝説は数多く生まれました。
【やまんば】は山に住む恐ろしい存在として描かれ、時に人間を襲う存在です。
油断せず知恵を働かせ慎重に行動することだと思います。

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