【レ・ミゼラブル】⑩~ああ無情~ユゴ-を読んだ感想!

《あらすじ》 ⑩

夜が明け染めるとともに、戦いが再び始まりました。

政府軍の攻撃は、一段と激しさをまし、共和派の若者たちは、全員討ち死にの覚悟を決め必死の抵抗を試みていました。そこへ、一人の老人が入りこんで来ました。

「あれは誰だ?」と、アンジョラが尋ねました。「あれは僕の知り合いだ。怪しい男ではない。」とマリウスは答えました。ジヤン・バルジヤンはマリウスを、じっと見つめました。マリウスは戸惑い、どうして突然老人が現れたのかまるで見当がつきませんでした。

「ああ、目障りな偵察兵が現れた。」と、アンジョルラが言いました。ジヤン・バルジヤンは、それを聞くと小銃の狙いをつけ偵察兵の鉄兜に弾丸が命中し音を立てて道路に落ちました。別の偵察兵が現れ、また鉄兜を撃ち落とされて、もう誰も現れませんでした。政府軍の砲撃はますます激しくなり、見方は次々に倒れ銃弾も次第に残り少なくなりました。

本部になっている居酒屋のホールは、戦死者や負傷者でいっぱいになり呻き声や血生臭い匂いで、凄まじい雰囲気でした。不意に、若者の一人が壁際に腰を降ろしている大柄な歳のいった男を指さしました。アンジョルラは黙ってその男に近づき「君は誰だ?」といきなり問いただしました。

男は、はっとして顏を上げ、見破られたと察して不敵な笑を見せながら答えました。

「わたしか、わたしは、君のお察しのとおり人間だ。」「では、政府のスパイだな。」「政府の役人だ。」「名前は?」「刑事ジャヴァェ-ルだ。」アンジョルラが合図をすると、四、五人の若者たちが躍りかかり、たちまち縛り上げてしまいました。「なぜ、直ぐに殺さないのか。」「弾丸がおしいのだ。」アンジョルラは、敵の砲弾で崩されたバリケ-ドを直すように指令しました。

正午の鐘がなり敵は最後の攻撃に移る準備にかかり、銃声が途絶えました。アンジョルラは、柱に縛りつられているジャヴァェ-ル刑事を指さして仲間たちに「最後に残った者が、この男を射殺してくれ!」それを聞いて、ジャン・バルジャンが進み出て「この男の処分は、わたしにさせてもらえませんか。」と言いました。アンジョルラは、老人を見て頷きました。

このとき、政府軍の突撃ラッパが響き、マリウスの叫ぶ声が聞こえました。「敵がせめてくるぞ!」全員が武器を持って飛び出しました。

後にはジャン・バルジャンとジャヴァェ-ルだけが残りました。ジャンバル・ジャンはジャベ-ルが縛られている縄の端をほどき、一諸に居酒屋の裏に回りました。そして、ジャヴェ-ルをじっと見つめ、それは言葉を必要としない眼差しでした。ジヤン・バルジヤンはジャヴァェ-ルの腰と手と首を縛っている縄を切り取り

「さあ、あんたは自由だ。どこへなりと行くがいい」ジャヴァェ-ルは滅多に驚く男ではないが、この時ばかりは唖然として立ちすくんでいました。「さあ、早く立ち去るがいい。わたしは生きてここから出ることは、ないだろうが万一生き残ったら、いつでも逮捕するがいい。」シャヴェルは、二、三歩行きかけたが急に振り返って「こんなのは困る。むしろ殺していただきたい。」ジャヴァェ-ルはのろのろと遠ざかり、角を曲がって姿を消しました。

この時ジャンバル・ジャンは空に向けてピストルを放ち、処刑が終わったように見せかけました。

青年たちは勇敢に戦いましたが、バリケ-ドがついに突破され、政府軍がどっとなだれ込んで最後にのこった数名も次々に倒れました。

マリウスは、ただ一人、まだバリケ-ドにしがみついていましたが、ついに一弾を肩に受けて転げ落ちました。その瞬間、待ち構えていたかのような二本の腕がその体を受けとめました。ジャン・バルジャンは今マリウスを抱きかかえはしたものの、すでに、あたりには敵兵がなだれこんでいるし、どこかに逃げなければなりません。

直ぐ、目の前に、直径六十センチほどの鉄のマンホ-ルの格子蓋がありました。彼は、その蓋を引きはがしマリウスを抱えたままその中に飛び降りました。穴の深さは三メートルほどで、パリの町には下水道が網の目のようにはりめぐらされセ-ヌ河に続いていました。下水道は蜘蛛の巣のように入り込んでいて、沈黙と闇と悪臭の世界でした。底のヘドロは、だんだんと深くなり進むのがますます困難になってきました。腹がすき、喉が乾き、生きているのか死んでいるのか、肩のマリウスは、いよいよ重くなってきました。

と、ある瞬間、足がずるずるとヘドロの中に沈むのを感じ、もがけばもがくほど足はいっそう深くヘドロの中にめり込んでいきました。彼は、死にもの狂いになって足を前に動かし続けましたが、マリウスを抱えている腕も、ヘドロの中であがく足も、しびれて感覚を失いかけてきました。「もう、おしまいだ!」と絶望の呻き声をあげたとき、足に堅いものが触れました。敷石の角で、やっと底なしのヘドロの部分を抜け出すことが出来ました。そこから先は、敷石が果てしなく続きマリウスも自分も力尽きてしまうのではないだろうか。と思って、前方を見上げると明かりが見え出口から差し込む光でした。彼は、何もかも忘れて光に向かって歩くというより、走っていました。ついに出口に達しました。ところが、出口には頑丈な鉄格子がはまっていて彼は棒立ちになってしまいました。彼は途方に暮れ、ぐずぐずしていたらマリウスは死んでしまう。

その時、不意に一人の男が彼の肩に手をかけました。

「おい、えものは山わけにしようぜ。」そう言っているのはボロをまとったテナルディエではないか。しかし、テナルディエの方では顔も体も泥まみれなのでジヤン・バルジヤンとは気がついていないようでした。

「おめえ、そいつをバラしたいんだろぅ。だけど、この門から出られねぇ。ところが、俺は鍵を持っているんだ。かせぎの半分をよこせば、開けてやるぜ。」テナルディエは彼を強盗と間違えているらしいのです。ジヤン・バルジヤンは答えないでいるとテナルディエはマリウスのポケットから三十フランをみつけだし自分のポケットに入れ、マリウスの上着の裾を引き裂いてそれも自分のポケットに入れました。「まあ、とに角、出してやらあ。」テナルディエは鍵を錠前に差し込み鉄格子の扉は音もなくあきました。テナルディエは、再び扉をしめ、闇の中に消えました。

外に出ると、ジヤン・バルジヤンは、マリウスをセーヌ河の岸にそっと降ろしました。

ふと、自分の背後に人影を感じて振り返ると、なんとシャヴェ―ルでした。盗みを働いたテナルディエを、追ってここに来たのでした。しかし、シャヴェ—ルは、目の前の男がジャン・バルジャンとは気がつかないのでジャン・バルジャンは自分からな名のりました。「シャヴェル刑事、わたしは、もう捕らえられたのも同然だ。すきなようにしてくれて結構だ。ただ一つお願いがある。」「お願いというのは、この男を家へ運ぶのに手をかしていただきたいのだ。」シャヴェル刑事は彼の言葉が耳に入らないように、茫然として聞き返しました。彼は、ジヤン・バルジヤンをかつてのように、(おまえ)とは呼ばなくなりました。シャヴェル刑事は、ポケットからハンカチを取り出すと河の水に浸してから血まみれのマリウスの顔をふきました。「すると、あなたは、この男をバリケ-ドから、ここまで運んできたのだね。」ジヤン・バルジャンは黙って頷きました。ジヤン・バルジャンはマリウスの住所を記したものをシャヴェルに見せました。

馬車は、三人を乗せて走り出しました。シャヴェルは何か考え込んでいるふうでした。馬車がジルノルマン家の門前についたのは、もう真夜中でした。二人は門を、激しく叩きました。シャヴェールが、起きてきた門番に怒鳴りました。「息子を連れてきたのだ。早く家に入れて医者を呼べ!」家の者たちがうろたえ、騒ぐ間に二人は馬車にもどりました。

ジャン・バルジャンはシャヴェール刑事に穏やかな口調で言いました。「これからちょっと家へ寄るのを許していただきたい。用事は、直ぐにすみます。後はすきなようにしてくれて結構です。」やがて、馬車は目指すところにつきました。

「よろしい。一人で行ってきたまえ。わたしは、ここで待っていよう。」

ジヤン・バルジャンは驚いて、ジャヴァェ-ル刑事が犯人を勝手に行動させるなど、かつてないことでした。ジヤン・バルジャンは、コゼットに事実を話し、マリウスの居所も教えてやり、財産の始末もつけておきたかったのです。コゼットともお別れになるが、あの子さえ幸せになればいい・・・もの思いに耽りながら二階にあがり、窓際に立って外を見るとシャヴェールが、姿を消してしまったのです。

シャヴェール刑事はその頃、両手を後ろに組んで、セーヌ河の方に向かって歩いていました。それは、彼が自信を失った時の姿勢でした。足取りも重たげで、彼は思い迷っていました。この世の一番の悪党だと、思って追い回していた人間に命を救われました。法律の側に立つ者だけが、正しい人間であり、そうでない者は全部悪者だと決めていました。ジヤン・バルジャンの振る舞いはシャヴェールの考えをひっくり返してしまいました。法律だけでは決められないものがある。それは人の心だと。今、彼はそのことに気がついたのです。それと同時に、それまでの彼の全てを支えていたものが音をたてるようにして崩れさるのを感じていました。

彼の目からは、いつもの冷たい光は消えていました。「ジャン・バルジャン、わたしは、あなたに負けた!」そう呟くと、彼はセーヌ河の川面(かわも)に真っ逆さまに落ちていきました。鬼刑事、シャヴェールの最期でした。

《わたしの感想》

シヤヴェ-ル刑事とジヤン・バルジャン。法に仕える人間と、法に裁かれる人間。二人は、法を超えるところまでに来たと思います。シヤヴェ-ル刑事はジヤン・バルジャンによって今までの生き方、考え方、全てが崩れ去ってしまったのではないでしょうか。

次回 ⑪は 最終話になります。宜しくお願いいたします。

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