【モ モ】(第三部—①)ミヒャエル・エンデを、読んだ感想!

《あらすじ》第三部-①

向こうでは一日、ここでは一年。

モモは、眠りから覚め、目をあけました。どうしてまた、円形劇場後の草むした石段に戻って来てしまっているのか、訳が分かりません。

ほんのついさっきまで(どこにもない家)のマイスタ-・ホラの所にいたはずです。

辺りは暗く、ひんやりしています。これまでの出来ごとは、何もかも、はっきりと覚えています。

でも一番鮮やかに記憶に残っているのは、金の丸天井の下で見聞したことです。

いまでも目を閉じるだけで、これまでに一度として見たこともないほど美しく、華やかな色とりどりの花々が瞼に浮かび上がってきます。

そして太陽と、月と星々のあの声も、今でもまだ、はっきりと響いていて、そのメロディ-を口ずさむことが出来るほどです。

モモの記憶の中のあの声が、それらの言葉を語っているのです。しかもその記憶そのものに驚くべき奇跡が起こっていました!

尽きることのない魔法の泉のように、そこには幾千もの(時間の花)の姿が浮かび上がってきます。

そして花の一つ一つが、新しい言葉となって鳴り響くのです。その言葉は、神秘にみちた不思議なことを語っていました。

そう言えばマイスタ-・ホラは、言葉はモモの中でまず熟さなくてはいけないと言っていました。

それは、このことだったのです!

下の方の中央の丸い広場で、何かごそごそ動くのが、ふと目に入りました。カメです!

大急ぎでモモは石段を駆け下りて、カメの側にしゃがみ込みました。大昔の光をやどしたような黒い目でモモを見つめました。

カシオペィアです。

モモは嬉しくなって「どうして、マイスタ-・ホラの所にいないで、あたしと一諸に来たの?」

「ワタシガ ネガッタカラ!」甲羅の文字が答えました。

「ありがとう、親切にしてくれて。」「ドウイタシマシテ!」

モモは石段に腰かけて、ベッポやジジや子どもたちに会うのを楽しみに待ちました。

この先長い間、モモの声に耳を傾けてくれるものがいないとは、モモは知るよしもありませんでした。

幾ら待っても友だちは来てくれないことも、自分が実は長い年月を留守にしていて、その間に世の中は変わってしまっていたことも、知らなかったのです。

ガイドのジジを丸め込むのは、灰色の男たちには割合い簡単に出来ました。

まず手始めに、モモが姿を消した直ぐ後、新聞にジジについて記事がでました。「本当の物語の語り手として最後の人物」という見出しです。

そのうえ、何時、何処に行けばこの人物に会えるかも書いてあり、これほど面白い見ものを見逃してはならないとまで、推賞してありました。

幾月も、立たないうちに、円形劇場後に立って帽子を持ってまわるようなことは、しないですむようになりました。

ラジオ放送に、テレビまで、出演するようになりました。

もう円形劇場の近くに住むのはやめて、金持ちや有名人ばかり住んでいる地区で、よく手入れの行き届いた庭に囲まれた近代的な大邸宅を借りていました。

名前もジジなどというのはやめて、ジロラモと名のりました。

今では、以前のように、たえず新しい(たね)を考え出すことなど、とっくに諦めていました。そんな、暇はないのです。

そこで、思いついた話の(たね)をうまく遣りくりして経済的に使い、たった一つの(たね)から五つもの違う話をこしらえあげることだってあります。

ますます膨らんでくる、需要に追い付けないという事態になってきました。ジジは、モモだけのために作ってあった物語を次々と話してしまいました。

でも、この話も他の話と同様、皆は味わいもせず飲み込んで後から後から話を要求するのです。ジジは、この目まぐるしいテンポに巻き込まれて考え直す暇もなく、急に自分の中が、からっぽになり、もう、何一つ考えだせなくなっているのを感じました。

今では、三人もの有能な女性秘書を抱えていて、その秘書たちが、全てをこなしてくれています。

モモを、捜しにいく時間は予定表がつまっていて、とても出来ない状態です。けれども、ある日ジジは、昔のジジらしさを奮い起こし立ち直ろうと決心しました。

俺が、皆に灰色の男たちのことを話し聴視者の皆さんに、(モモ捜しを手伝ってください。)と頼むことにしょう。

夜が白み始めたときには、ジジは大きな机に座ってこの計画を実行するためにメモを取ろうとしていました。

ところが、電話のベルがけたたましく鳴りました。受話器をとって耳に当てましたが、その顏はたちまち恐怖にこわばりました。不気味に抑揚のない、灰色の声が話かけます。それを聞くやいなや、骨の髄から這い上がって来るかと思われるような寒さが襲いました。

「おまえを、作りだしたのは我々だ。おまえは、ゴム人形さ。我々が空気を入れて膨らましてやったのだ。あの子を、助けることが、おまえに出来るものか。我々の話をばらしたところで、おまえの素晴らしい成功が逃げてゆくだけさ。金持ちで有名だってことの方が、ずっといい気分じゃないか?」

「そりゃそうだが・・・」ジジは、苦しそうに答えました。

「一つ、いい助言をしてやろう。俺には実際かかわりもない。こう考えれば、これまでどおり気楽にやっていけるじゃないか!」

「そう考えればね・・・」ジジは茫然と目の前を見つめて、呟きました。

カチッと電話の切れる音が聞こえジジは受話器を置くと、大きな仕事机に身を震わせて両腕に顏を埋め、声を押し殺してすすり泣き体中が震えました。

hacker man broken lock security by hand cyber crime concept

この日から、ジジは自分はイカサマ師だという思いがつきまとって離れません。聴衆の道化になり操り人形なのです。

それを自覚しているだけに、ジジの物語は鉄面皮な嘘になるか、ますます感傷的になるかでした。反対に人々はこれこそ新しいスタイルの物語だとほめそやし、大流行となりました。こうして、昔の夢見るジジは、嘘つきジロラモになりはてたのです。

道路掃除夫ベッポじいさんを片付けるのには、灰色の男たちはこれより、はるかに手をやきました。

モモが、消えてしまったあの夜以来、ベッポは仕事のとき以外いつも円形劇場後に座り込んでじっと待っていました。

心配と、不安は日ごとに高まり、とうとう、それに耐えきれず警察に届けに行こうと心を決めました。

そこで、ベッポは一番近い町外れの交番に出かけて行きました。「なんの用かね?」ややこしい書類の書き込みをやっていた警官が尋ねました。

ベッポは、しばらくたってようやく口を開きました。ベッポは、警官が尋ねられて、「捜索願いで・・・」と、やっと切り出し、(身元が分からず、名前もモモだけで、苗字が分からず)と、話し警官は「これでは、捜索願いの書類も作れないじゃないか。じゃあ、あんたの名前は?」「道路掃除夫ベッポ。苗字と職業の兼用なんです。」ベッポは、辛抱強く説明しました。警官は絶望的の呻きをあげ「身元調べは後に回すとして一体どんな事件か、順序立てて、すっかり話してくれないか。」

そこで、ベッポじいさんは例の奇妙な、分かりにくい話し方で、モモが現れたことなど、モモの不思議な性質のことや、ごみの集積場で自分が盗みぎした灰色の男たちの話まで、何もかも洗いざらい喋りました。

これには、とうとう警官の堪忍袋の緒が切れました。「もう、たくさんだ!さっさと消え失せろ!さもないと警察を侮辱した罪で、ぶちこんでやるぞ!出ていけ!」警官はわめきました。

ベッポは、縮みあがって口ごもり、後ろを向いて外に出ました。

次の日も、そのまた次の日も、ベッポは、色々な場所の交番に姿を現しました。そこで繰り広げた光景はどれも、最初のときとはたいして違いませんでした。

ところがそのうちに、ベッポは、たまたま上役の警官にぶつかりました。この、上役の警官はユーモアのセンスにかけるところがありました。

「このじいさんは、頭がおかしいな。公安を害する恐れがないかどうか、確かめる必要がある。留置場に入れて置け!」

ベッポは、窓に格子のはまった大きな白い建物の精神病患者の病院に入れられました。

Antique illustration of USA: Jacksonville, Illinois – Blind Asylum

ある夜のこと、誰かがベットの側に立っているのが見えました。灰色の男だと悟ったベッポは、心臓の氷るほどの寒気に襲われました。

「おまえが、我々の話を相手構わず触れ回っても、痛くも痒くもない。だが、おまえの小さな友だちのモモが我々に捕まっていることは確かだ。それに、(たすけ)

だそうなんてすると、可哀そうにあの子の立場は辛くなる。」ベッポは、灰色の男の言ったことを、全て本当のことだと、信じてしまったのです。

灰色の男は続けて「おまえが、今後一斉、我々の行動について喋らないという条件をのむなら、あの子を返してやる。いわば、身代金として総額十万時間を貯蓄してもらおう。どうやって、受け取るかは心配しないでいい。これだけの、時間を節約することで、どうやるかは、おまえが考えればいい。これを、承知するなら二、三、日でおまえを、出られるよう計らってやろう。承知できないなら、ここに、永久にいればいいし、モモは捕まったままだ。こんな結構な提案をしてもらえるのも、これ一回きりだぞ。」

ベッポは二度唾を飲み、それからかすれた声で、「承知した。」

灰色の男は、満足そうに寝室を出て行きました。

二、三日後には、ベッポは退院を認められました。

けれど、ベッポは、家にかえりませんでした。ベッポは、モモの身代金を払うため、せかせかと仕事への愛情など持たずに、ただただ時間を節約するためにだけ働いたのです。命がけで、ほうきをふりまわしながら突進していくベッポの後ろ姿。やがて春が来て、また夏になりベッポは、それにも気がつかないまま、十万時間の身代金を貯めるために、ただひたすら道を履き続けました。

灰色の男たちにとって最大の難事業は、モモの友だちだった子どもたちを、思い通りに操れるようにすることでした。

モモがいなくなった後でも、子どもたちは円形劇場に集まって来ました。子どもたちは、モモが帰って来ると暗黙のうちの確信が、互いに子どもたちを結びつけていました。

これに対して灰色の男たちも手がでませんでした。

子どもたちをモモから引き離すには、間接的にでも影響力の振るえる大人たちを利用することにしました。

今では大都会の大人たちは時間貯蓄家になっていましたので、灰色の男たちの目論見は意外にうまくいきました。

市当局のの大人たちは「一人で放り出される子どもはどんどん増えているが、親を責めるわけにはいかん。現代では親は充分に世話してやれる時間がないんだからな。施設を作って、そこで子どもたちを、社会の役立つ有能うな一員に教育するようにしなくってはならない。」意見がまとまりました。

そこで各地区ごとに、〈子どもの家〉とよばれる施設を作り、子どもの面倒を見てくれる人のいない子どもは、全部ここに収容されなくってはいけないことになり、親が手のあいたときに連れて帰ります。

次第に子どもたちは、小さな時間貯蓄家といった顏つきになってきました。やれと、命じられたことを、面白くなさそうに、膨れっ面でやります。

すきなようにしていいと言われると、何をしていいのか分からず、腹立ちまぎれのとげとげしく騒ぐのでした。

その円形劇場の石段に、今モモは座って友だちを待ち続けました。とうとうモモは、石段を降りてカメのところに行きました。

カメは眠ろうとして、甲羅に潜り込んでいます。モモは、カメの甲羅のお家をそっとノックしました。

「起こしちゃって、ごめんなさい。教えてもらいたいの。どうして、今日一日中あたしの、お友だち来なかったのかしら?」

カメは甲羅に文字が浮き出ました。「モウダレモコナイ」モモはそれを読みましたが、一体どういうことなのか意味が呑み込めませんでした。

「まあ、いいわ。明日になれば分かることだもの。必ず友だちが来てくれる。」「モウコナイ」と、答えがでました。

モモは、しばらく文字をみていましたが、「あたしの友だちに何かあったの?」「ミンナイナクナッタ」と、また文字が浮かんできました。

「違う。そんなはずはない。カシオペィア。昨日大集会に皆集まってたのよ。」「アナタハ マルイチネン ネムッテイタ」

この、答えの意味を飲み込むには、しばらく時間がかかりました。モモは、ようやく口ごもりながら「ベッポはとジジは待っていてくれている!」

「モウ ダレモイナイ スベテハ スギサッタ」モモは生まれてはじめて、この言葉の意味を骨身に沁みて思い知らされました。

「あたしは、まだここにいる。」心が、かってなかったほど重く沈みました。しばらくたって、裸足の足にカメがさわったのを感じました。

「ワタシガツイテイル」甲羅に文字が光っています。泣きたいのを堪え、モモは健気に笑顔を作りました。

「そうね。おまえがいてくれるわね。ありがたいわ。カシオペィア。」

モモは、カメを抱き上げると壁の穴をくぐって部屋の中に入りました。部屋の中は、ベッポがあのとき、片づけて置いたのです。

でも、辺り一面ほこりだらけで、クモの巣がかかっています。一通の手紙が、ブリキの缶に立てかけてありました。

それにも、クモの巣がかかっています。モモは、手紙を貰うなんて、はじめてで心臓がドキドキしました。

「大好きなモモ!ぼくは、引っ越しした。とても心配してたんだ。きみが、いないと、とてもさみしい。きみの、無事を願っているよ。おなかが、すいたら、ニノのところへ行けばいい。勘定は全部、ニノがぼくのほうにまわしてくれる。だから食べたいだけ食べていいんだよ。わかったね?くわしいことは、ニノが話してくれるはずだ。ぼくのことをわすれないでいてくれ!ぼくも、きみのことをだいじに思っているよ!いつまでも、きみのジジより」

ジジは、綺麗に読みやすく書いてくれたのですが、モモには解読するのにとても時間がかかりました。

モモの、気持ちは慰められました。.

モモは、カメを抱き上げて、ベットの横になり、ほこりだらけの毛布で体を包みました。

この手紙が、もう、一年もの間、ここに置きぱなしになっていたとは思いいたりませんでした。

モモは、手紙を顏の脇に置いて、そっと頬をのせました。もう、寒くありません。

次の昼頃、モモはお腹がすいたので、カシオペィアを抱えてニノの小さな酒場に出かけて行きました。

モモは陽気に、「ジジもベッポも、ニノは知っているのよ。」とハミングしながら、カメのカシオペィアに話しました。

カメはそいうモモを、太古を思わせる瞳でじっと見つめるだけで答えません。

直ぐにニノの店が見えたのですが、今までの古い家はなく、大きなガラス窓のついた長いコンクリ-トの箱が立つているのです。

モモは、中に入ってみましたが、勝手が違うので間誤付いてしまいました。凄く高いテーブルに椅子はなく、食べものも自分でもってくるのです。

店の中は込み合っていて、大抵の人はお皿や瓶をのせたお盆を持っていてあいたテーブルを占領しょうと隙を伺っています。

モモは、引っ切りなしにキ-をパチパチと叩きながら、お金を受け取り、釣銭を返しているニノの姿が見えました。

モモは心を決めて柵を乗り越えると、人の列をかき分けてニノの方に突進しました。何人かが大声で文句を言いだしたので、ニノは目を上げて、モモを目にした途端に

ニノの顔から不機嫌そうな表情が消えました。

「モモじゃないか!」以前会ったときと同じように顏を輝かせて叫びました。「帰って来たんだね!本当に思いもかけなかったよ!」

「さっさとしてくれ!」行列の人々が叫びました。「まあ、まあ。」両手をあげて皆をなだめるように叫びました。

「ちょっとのご辛抱っを!」列の誰かが、喰ってかかりました。「さっさと順番にやってくれ!子どもたちは、俺たちより暇なんだ。」

ニノは、急いで耳打ちしました。「何か食べたいものをとっておいで。他の人と同じように並ぶんだよ。ジジがおまえの代金を払ってくれるからな。」

モモが、何の質問も出来ないうちに、人々はモモを押しのけてしまいました。どうしても、ベッポと、子どもたちのことは聞かなければならないので、

お盆に料理一杯並べてレジのところにいき

「道路掃除夫ベッポはどこにいるの?」モモは聞きました。

ニノは、またしてもお客に文句を言われはしないかとびくびくして、大急ぎで説明しました。

「ベッポはおまえを、ずっと待っていたよ。おまえの身に何か恐ろしいことが起きたんだと考えてな。しょっちゅう灰色の男とかの話を、何やらしてたな。

おまえも知ってのとおり、あいつはもともとちょっとおかしかったからね。」

「おい、そこの二人!」列の誰かが叫びました。「居眠りでもしているのか?」「直ぐです。」ニノは、そっちに声をかけました。

「それで?」モモは聞きました。「それから警察を怒らせるようなことをしでかしたんだ。おまえを、捜してくれって言い張ったんだよ。最後はサナトリウムみたいなところに入れられたそうだ。害は、ないということが分かって出してもらえたんだ。」

「なんてこった!」カンシャクをおこした声が後ろから聞こえました。

モモは、「そう。でも、それなら今はどこ?」「知らないよ、本当だよ、モモ。お願いだ、もう行ってくれ!」モモは、今度も後ろの人に、押しのけられました。

でも、いつも遊びに来ていた子どもたちの消息も聞いておかなくってはなりません。仕方なく、列の後ろについてお盆に料理いっぱい並べてゆきました。

ようやくまた、レジのニノのところにたどり着きました。モモがまたも現れたのを見てニノの額に脂汗が浮かびました。

「それから子どもたちは、どうして来なくなったの?」モモは、強情に質問しました。

「面倒を見てくれる人のない子どもは皆(子どもの家)に集められるんだ。子どもだけで好きなことをするのは禁止されたのさ。子どもたちは、今じゃ保護されてるんだ。」

またも、列から怒声が飛びました。後ろの人並がモモを、押し出しました。

円形劇場後に戻ってからカシオペィアに言いました。

「たくさん食べたわ。でも、満足した気持ちにはちっともなれない。」「でも、明日はジジを捜しに行きましょ。あの人ならおまえの気にいるわ。明日になれば分かるわよ。」

けれどもカメの甲羅にはおおきな疑問符がひとつ現れました。

《わたしの 感想》

(人間とは時間を感じるために心というものがある。)ももの一節です。

時間とは、本当の豊かさとは何かを考えさせられます。

次回(第三部—②)を宜しくお願いいたします。

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