
今回で、最終回になります。努力と、精神力の強さ、やり抜く力で奨学金を手に入れました。
アンが、大学進学の夢を断念しました。
アンの運命、未来はどうなるのでしょうか。
★⑦赤毛のアンという女の子
(最終回)

卒業式は、学校の大講堂で開かれました。
演説やら論文の朗読やら、証書やら賞状やら、メダルやら、の授与が賑やかにおこなわれました。

マシュ-もマリラも式に出て、だんの上のただ一人の学生に目をそそぎ、
その声に聞きほれていました。
うす緑の服を着て、ほんのりと頬をそめ、星のように輝く目をして最高の論文を読み、「あれがエイブリ-賞を取った子よ」と、みんながささやき、指さしている背の高い娘から一瞬たりとも目をはなそうとはしませんでした。
マシュ-も、マリラも喜びと感激で胸がいっぱいになりました。夕方、アンはマシュ-とマリラと一諸にアボンリ-の家にかえりました。
四月から一度も帰ったことがないので、もう一日だって待てなかったのです。
ダイアナが、グリ-ン・ゲイブルズにいて迎えてくれました。
アンは二階の白い壁に包まれた自分の部屋にいきマリラが置いてくれた窓べのバラの鉢あたりに立つと幸せ一杯の息を、大きく吸いました
「本当にダイアナ、うちに帰るってすばらしいわね。このバラ、歌と希望と
お祈りを一つにしたみたいね。そして、何よりうれしいのは、ダイアナ、
あなたと、また会えたことだわ。」

「だけど、アンあなたは本当にすばらしい。よく頑張ったわね。もう、
学校では教えないんでしょう?エイプリ-をとったんだから。
アン、ギルバ-ドはお父様が来年大学へやるだけの学費を出せなくなったので、彼
自活しなければならないのね。もしここのエイムズ先生が今度おやめになれば、
ギルバ-ドがあとにくるんじゃないかしら。」
ダイアナの言葉に、アンは自分でも分からない、奇妙な寂しさを感じました。
このことは初耳で、ギルバ-トも一諸にレドモンドの大学に行くものとばかり思って
いたのです。
その次の朝ですが、アンはマシュ-の顔色が冴えないのに気づいて酷く驚き、
この一年でマシユ-の髪はぐっと白髪が増えたようです。
マシユ-が部屋を出た後アンは恐る恐る尋ねました。

「マリラ、マシユ-おじさま、どこか悪いんじゃないでしょうね。」
マリラは暗い顏をしてこたえました。
「そうなんだよ。この春、心臓の発作を起こしてね。わたしは本当に、心配して
いるんだよ。それに良い手伝いが見つかったから休むこともできるし、アンが来たから
大丈夫だと思っているんだよ。あの人はあんたを見ればいつも機嫌がいいのだから。」
アンはマリラの顏を両手のあいだにはさんで言いました。
「あなたも、あまり顔色がよくないわ、マリラ、わたしがうちにいる間、
ゆっくり休んでよ。」
マリラは溢れる愛情を微笑みに込めて、アンを見返しました。
「働きすぎじゃなくって、頭痛なんだよ。目の奥の方が。スペンサ-先生はメガネの
ことをうるさく言いなさるけれど、効果がないんだよ。六月末に、この島に眼科の
名医がおいでになるので診察を受けようと思っている。本を読むにも裁縫するにも
不自由でね。そうだ、アン近頃アベ-銀行のことで何か聞いてないかい?」
「何か経営があぶない噂(うわさ)、聞いたけど、どうして?」
「うちのお金は全部あそこに入っているものだから、マシュ-は酷く心配してね。
わたしは、全部貯蓄銀行に入れるように言ったのだけれど、アベ-さんが父の仲の良い
友だちだったものだから、マシュ-は頭取なら大丈夫と思っていたらしいのよ。」
「でも、今は名前だけの会長で年をとってからは、
親戚の方に任せていらっしゃるんじゃないの。」
アンは、この日、外を歩きまわっていつまでも忘れない一日を過ごしました。
牧師館に行ってアラン夫人とたっぷりお喋べりをしました。

それから最後に、夕方になってマシュ-と、一諸に牛を集めるために牧場に行きました。
森は夕日を受けて輝き、西の山のあいだから金色の日差しが暖かくそそいでいます。
マシュ-は頭をたれて、のろのろと歩きます。
アンは言いました。
「マシュ-おじさま、今日は働きすぎよ。もっとのんびりやらなくては。」
「アン、年をとりすぎたせいだと思うよ。わしは一生懸命働いてきたし、
死ぬなら働きながらにしてもらいたいよ。」
「もし、わたしが、はじめに臨んでいた男の子だったら、
こんな時、随分お役にたてるんだけれど。」
アンが情けなさそうな声を出しました。
「わしは十人の男の子がいるより、アンおまえ一人の方がいいよ。
わしの自慢のアンなんだから。」

庭に入りながらそう言って、マシュ-は内気な微笑みを浮かべました。
アンは、その夜、自分の部屋に入ってからも、
その微笑みを忘れることが出来ませんでした。
「マシュ-、マシュ-、どうしたの、マシュ-、気分が悪いの?」
震える声で叫んでいるのはマリラでした。
アンが久しぶりに庭でとった大好きな白スイセンを両手一杯に抱え
廊下を通り抜けようとしたとき、このマリラの声が聞こえたのです。
振り返ると入口に立ったマシュ-の姿が顏は変に歪んで真っ青でした。
アンは、花を落とし台所をひととびに抜けてマリラと同時に駆け付けましたが
二人とも遅すぎました。
「アン、急いでマーチンに直ぐ医者を呼んでおくれ。」

アンとマリラはすっかり取り乱し、
夢中でマシュ-の意識を取り戻そうとしているところでした。
医者が来て、マシュ-の死は突然訪れたもので、
おそらくなんの苦しみもなかったろうと、言いました。
そして、何かのショックが原因のように思うとのことでした。
その原因というのはマシュ-が握りしめていた新聞にあったのです。
アベ—銀行の破産のことがでていたのでした。

マシュ-はお棺(かん)に入れられて客間に横たわり、
村中の知り合いが分かれを告げに訪れました。

マシュ-の顏は、気持ちよく眠っているように微笑を浮かべていました。
何故か、アンは一人になっても、少しも涙が出ませんでした。
ただ暗い、重苦しさに胸が押しつぶされるように痛むばかりでした。
夜中、真っ暗な静けさの中にいたとき、前の日の夕方、
木戸のところで微笑んだマシュ-の顏が、浮かび
「…女の子で。しかも、わしの自慢の女の子だったんだからな。」
このとき、急に涙が溢れて溢れて、アンは何もかも忘れて泣き崩れました。

マシュ-の葬式もすみ、ある日
アンが墓にマシュ-が好きだった、小さな白バラを植えてきた夕方のことです。

マリラとアンは並んで入口に腰をおろして昔の思い出や
アンの友だちのことを話し合いました。
このとき、マリラが「ギルバ-ト・プライスも学校で教えるそうだね。」
マリラは、まるでひとりごとのように言いました。
「先だって、教会で見かけたが、背が高くってがっしりして。
父親そっくりだね。ジョン・プライスは、いい男だった。
わたしたちは仲のいい友達でね。ジョンはわたしの恋人だなんていわれたものだよ。」
アンは、たちまち興味を惹かれて顏をあげました。
「それでどうしたの、マリラ?どうしてあなたは・・・」
「喧嘩をしたんだよ。あの人が謝ったとき、わたしは許さなかった。
許すつもりでいたのだけれど、すねてふくれていたのさ。
そうして罰を加えてやるつもりだったのだが。あの人は二度ともどって
こなかった。わたしはいつも思い出すと辛くって、
許すチャンスがあったときに許さなかったことを、悔やんだものだよ。」
「ではマリラ、あなたにもロマンスがあったのね。」
アンはささやくように言いました。
「まさかと思っていたんだろ。人は見かけによらないものだよ。
もう誰もが皆忘れてしまったことさ。
わたし自身も忘れていたんだもの。
ただ、先だって、日曜日ギルバ-トを見て思い出したんだよ。」
次の日マリラは町へ行き、夕方もどって来ました。
テ-ブルに両手を投げだしたまま力なくうつ向いているマリラを見て、
アンは驚いて尋ねました。

「眼科の先生に会ったの?なんていっていた?」
「見てもらったけれどね。本を読むのと裁縫をやめて先生がくださるメガネを使っていれば
これ以上酷くならないし、頭痛も治まるといわれるのだが。何を楽しみに生きるのだい。
目が見えなくなったら。死んだも同じじゃないか。」
夕食後アンは、マリラを慰めて早く寝るようにすすめました。
それから、二、三日午後、アンはマリラが庭で客と話ている姿を見かけました。
アンは、マリラに「何か、用事でも?」と、尋ねると
マリラの目は涙にぬれていました。
「グリ-ン・ゲイブルズを売ると聞いて、買いにきなすったのだよ。
ほかに方法がないのだよ。
わたしの目が悪くなければ、人を雇っていけるかもしれない。
そうでなくっても、銀行にはお金もないしマシュ-が残した支払いもある。
幾らにもならないが、自分が生きていくくらいにはなるだろう。アンが、
奨学金をとってくれたのはありがたいよ。
ただ休暇で、もどってくる家がなくってかわいそうだが。」
マリラは顏を伏せて、泣き崩れました。

「マリラ、ここに一人でいるのではありません。わたしが一諸にいます。
レドモンドに行くのはわたし、やめました。」
「レドモンドに行くのをやめたって!それはどういう意味なの。」
マリラは両手から顏をあげて、アンをのぞき込みました。
「町からあなたが帰った日に、決めたの。マリラ、こんなにお世話になりながら
困っているあなたを、わたしが、ほうっておけると思う。
わたし考えて計画をたてたのよ。畑の方はバーリ-さんが、借りたいと言ってます。
だからなんの心配もいらないのよ。それから、わたし学校に教えに行きます。
カ-モディ―の学校ならいけそうなの。無論アボンリ-に勤めるよりは不便ですけれど、
暖かい季節には家から馬で通えるし、冬だって金曜日には帰ってこられるわ。、
マリラに本も読んであげられるし、お話もできるし二人で楽しく暮らせるわ。」
マリラは夢見る人のように聞いていましたが、やがて言いました。
「わたしのために、あんたを犠牲にするなんて、とんでもないことだ。」
「何を言っているの。犠牲なんか、どこにもありはしないわ。
グリ-ン・ゲイブルズを失う方がよほど恐ろしいことじゃないの。」
そう言ってアンは笑いました。
「だけど、あんたの抱負は?」
「抱負は今だってあるわよ。立派な先生になってあなたの目を治すの。
一杯計画があるわ、マリラ、(クイ-ン)をでたとき、
わたしの将来の道は真っ直ぐ延びているように見えたけれど
今その曲がり角にたったのです。必ずよいことがあると信じています。」
マリラがどんなに喜んだことか。
「生きる張りが出来た」と、さえ言っていました。

ある夕方、レイチェル・リンド夫人はグリ-ン・ゲイブルズに来て
「アン、ギルバ-ドが委員会に出かけて自分は身を引くから、
アンを、アボンリ-に採用するようにと言ったらしいよ。
アンがどんなにマリラと一諸に住みたがっているか、
彼、知っていたからだよ。
これは本当の親切というものだ。
自己犠牲だよ。ギルバ-ドだって大学へいくお金がないくらいだもの。
下宿代を、これからは払わなければならないんだもの。」
「でも、わたし困るわ。そんな義理なんてないもの。」アンが口ごもると、
レイチェル夫人は
「仕方がないさ、アン、もう決まったのだから確り、いい先生にななるんだね。」

その翌日の夕方アンはアンポリ-の小さな墓地へ行って、
マシュ-の墓の白バラに水をやりました。
アンポリ-の村が夢のように、広がって、その向こうには海が霧のなかにかすみ、
波の音が、巨人のつぶやきのようによせてきます。
こんなところに住めるなんて、本当に幸せだわ。
道の途中で背の高い青年が口笛をふきながら歩いて来ました。
ギルバ-トでした。

彼は、アンに気づくと口笛をやめ、
帽子をとって丁寧に挨拶をして黙ってゆきすぎようとしました。
「ギルバ-ト。」とアンは頬を赤くそめて手を差し出しました。
「ここの学校をわたしに譲ってくださってありがとう。
本当にご親切をありがたく思っています。
わたし、それをあなたに知っていただきたくって。」
ギルバ-トは、アンの手を確りと握ってこたえました。
「たいしたことじゃないですよ、アン。少しでもお役にたてて、僕はとても嬉しいんだ。
これから、友だちになってくれる?本当に、僕の昔の間違いを許してくれますか。」
アンは笑い、手を引っこめようとしましたが、ギルバ-トは離しませんでした。
「わたし、あの岸辺でもう許していたの。
なんて頑固なおばかさんだったんでしょう。
それからね、本当のことを言ってしまいますと、わたしあれから後悔していたの。」

「僕らは、そう生まれついてきたんだよ。
アン、きみはその運命に逆らい続けてきたがもうおしまいだ。
僕らは色々なことで、お互いに助会えると思うよ。
勉強は続けるんだろ。僕も続けるつもりだ。
さ、家まで送ろうじゃないか。」
アンが台所にはいってきたとき、マリラは不思議そうに、その顏を見て尋ねました。
「今、あんたと一諸にきたのは誰だい?」
「ギルバ-ト・プライスよ。バーリ-の丘で出会ったの。」
アンは、我知らず頬がそまるのを、恥ずかし気にこたえました。
アンはその夜、しんから満ち足りた気持ちで、長い間窓辺にすわっていました。
谷間のモミの林のするどくとがった梢の上に、ほしがまたたき、木のあいだから
ダイアナの窓の明かりが見えていました。
クイ-ンから帰って同じ窓辺にすわったあの夜から思えば、
アンの未来に見える世界はたいそうせばまれたようでした。
が、道は狭くても、静かな幸福の花がその両側にさいているのを、
アンはよく知っていました。
そして道にはいつも曲がり角があるんだわ。
アンはそう思い、そっとロバ-ト、ブラウニングの詩をつぶやき
神は天にあり
世はすべてよし

《わたしの感想》
赤毛のアン・シャリ-は、わたしもマシュ-と同じで、
すっかり虜になってしまいました。
赤毛のアン・シャリ-は夢みるようなロマンチックな性格。
なによりも素直で明るく、そして決断力と実行力。
持って生まれた空想力の世界。
赤毛のアン・シャリ-、わたしは大好きです。
ギルバ-トのアンに対する本当の自己犠牲。
本当の親切を痛感しました。
孤児院にいたアン・シャリ-は、マリラ兄妹にひことられ
悩んだり失敗などしたりしてマシュ-・マリラ兄妹の温かい
愛情に包まれ、支えられて成長していきます。
モンゴメリの素晴らしい物語に引き込まれてしまいました。

ル-シ-・モ-ド・モンゴメリ
1874年カナダのプリンス・エドワ-ド島に生まれる。
1942年死去
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