
何故、ジャン・バルジャンは修道院を、出てしまったのでしょうか。

ジャン・バルジャンは、修道院での庭番の仕事には不満がありませんでした。ジャン・バルジャンも、コゼットも幸せでした。このまま、修道院で暮らせばコゼットは当然、修道女になるでしょう。ジャン・バルジャンには、それは忍びないことです。そのうち、フォ-シュルヴァン爺さんが病気になり死にました。
それを機会に、ジャン・バルジャンは、修道院長に世話になったことへのお礼を述べて暇をとりました。
《あらすじ》 ⑨
あれから五、六年も経っていたから、さすがのジャベ-ルもジャン・バルジャンのことは忘れているはずでした。
しかし、油断は出来なかったので身分を隠し、フォ-シュルヴァンと名のってパリの別の場所に三軒の家を借りていました。生活していくうえでの金は、マドレ-ヌ市長のときに、貯まった大きな金額の金がモントル-ユの近くの森の中に埋めてあります。
コゼットは、ジャン・バルジャンを本当の父親のように慕いどこへ行くにもついて歩いて来ます。コゼットの部屋は美しく飾られ、窓にはダマスク織りのカーテンがつるされ床にはペルシャの絨毯が敷かれています。

日に日に美しくなり、明るく幸せそうなコゼットを見やっては、ジャン・バルジャンは、この幸せがいつまでも続きますようにと胸の中で祈るのでした。
ジャンバルジャンが出かけたある晩、彼女は自分の庭に降りてみました。ふと庭の隅に人影が立っていました。マリウスはエポニ-ヌに教えられ思い切ってここへやって来ました。二人はこのとき初めて口をきいたのに、もうずっと前から知り合っていた間柄のような気がしました。

それから、マリウスはしょっちゅう訪ねてきて二人の楽しい語らいの日が続き二人は心からの友だちになりました。
何故か、コゼットの胸の中にはマリウスのことをジャンバルジャンに話すのをはばかる気持ちがありました。なんだか、酷く悲しませるような気がするのでした。
ある宵(よい)、コゼットは酷く悲し気な表情でマリウスを迎えました。「今朝(けさ)急に父が、近いうちにイギリスへ行くんですって。」「イギリスだって?」と、マリウスは驚いて、思わず大声を出しました。
二人は、もう会えなくなるし、結婚の夢も崩れてしまうではないか。自分にはイギリスにいくだけの金はないし、二人は途方に暮れました。コゼットは、今にも泣きだしそうでした。
マリウスは思い迷った挙句、祖父の所へ行って必要な金を貰ってこようと決心しました。
あくる日、マリウスは思い切って、祖父ジルノルマンを尋ねました。ジルノルマン老人はすでに八十一歳になっていて、元気ではありましたが、寄り付かない孫のことなど衰えてゆく体のことなど思うと暗い思いになりました。一時も忘れたことのないマリウスが思いもかけずに帰って来たと知って、驚きと喜びで暫く茫然(ぼうぜん)としたほどでした。マリウスはお願いがあって参ったことで、ある女性と結婚してイギリスへ渡りたいのでその費用を、なんとかしていただけないかと思って来たことを話しますと、老人はさっと、顔色をかえました。「なんだと?結婚する?そして、イギリスに行くのだと?詫びにきたのではなく、持参金もない、まる裸の女か!ぜったいにならん!いうまでもないことだ!そんな娘はろくでなしにきまっている!」祖父の言葉を聞いてマリウスは顏を青ざめました。「あなたは五年前に私の父を侮辱なさいました。今度は私の妻になろうとする女性を侮辱したのです。もう、何も頼りません。ごきげんよう。」
マリウスは、うちひがれた暗い気持ちでパリの町中をうろつき回りました。とに角、コゼットに会って、何か良い方法が見つかるかも知れないと思いコゼットの住む町の方へ足を向けました。だが、コゼットの家についてみると窓は全部締め切られ、家の中は静まり返っていて明かりもついていませんでした。扉をノックしましたが、なんの答えもありませんでした。
庭のベンチに腰を降ろし、頭を抱えたまま、マリウスは時がたつのも忘れたかのように、いつまでも深くうなだれていました。
この時、不意にマリウスの胸に目覚めたのは共和派の仲間の所へ行こう、みんなの先頭に立っているアンジョルラという青年の情熱には強く引かれるものがありました。

コゼットを失ってしまっては、生きる張り合いもなくなりました。共和派の戦いに加わって死のうとマリウスは思いました。フランスは再び王制に戻っていましたが、ルイ・フィリップ王を中心とする政府には国を治めていく力が充分ではありませんでした。王制に反対する共和派の人々の運動は激しくなり1789年の大革命と同じような騒動がいつおこるとも知れない情勢でした。警察は、共和派の人々はもとより、少しでも怪しいと思う人物を片っ端から捉えて、取り調べました。ジャンバルジャンが、思い切ってパリを離れイギリスへ渡るのもそのためでした。
マリウスは、シャンゼリゼ大道りを抜けルーヴル宮殿に近いサン・トイレ通りに入って来ました。通りの店はほとんど戸を降ろし、広場には政府軍の騎兵がたむろしていました。マリウスは、共和派の集まっている一画(いつかく)へ近づいて行きました。共和派の仲間たちは天をこがさんばかりに燃え盛るたいまつの炎が見えました。

仲間たちのバリケ-ドのある所で、マリウスは群れをなす政府軍の銃剣の煌めく中をくぐり抜けて、仲間たちが集まっている居酒屋に乗り込み、やっとの事で皆と一諸になることが出来ました。荷車や机や椅子や、ありとあらゆるものが街路のまん中に積み重ねられていました。青年たちの指導者はアンジョルラという学生で正義のためには死をも恐れない激しい情熱と強い決意が、青年たちの若若しい顏に溢れていました。やがて歩調の揃った足音がきこえ、政府軍の部隊が攻め寄せてきました。猛烈な銃撃戦がはじまり、若者たちは死に物狂いで戦いましたが圧倒的な数の政府軍は、次第にバリケ-ドへよじ登り、息のつまるような硝煙の渦巻く中で負傷者たちが苦し気な呻き声を上げていました。

その時、鋭い叫び声が響きわたりました。一人の若者が、火薬のたるを抱えてバリケ-ドに進みでました。炎に照らされたその顏はマリウスでした。マリウスの顔には、死を決意した者の崇高な輝きがありました。それを、見てとった政府軍の兵士たちは、怯えてバリケ-ドからおり、先を争って逃げました。仲間たちの歓呼に迎えられてバリケ-ドをおりたマリウスは、直ぐ近くで自分の名を呼ぶ声を聞きました。「マリウスさん・・・」それは、今にも消え入りそうなかすかな声でした。マリウスは驚いて走りよると、それは男装をしたエポニ-ヌでした。「どうしてこんなところへ来たんだ?何をしたんだ?」エポニ-ヌは喘ぎながら苦し気に言いました。

「・・さっき、あなたを・・鉄砲でねらったやつがいたのよ。・・だから、あたしその前にとびだしたのよ・・弾はあたしの背中をつきぬけたわ・・もう駄目‥」「エポニ-ヌ、自分を犠牲にして僕を救ってくれたのか!手当をしてもらおう。」「・・あたしのポケットの中に手紙が入っているわ。あの娘さんの家の門の所にいたら・・ポストに入れてほしいって・・頼まれたの。あたしそうしなかったの。悪い女でしょ?だって・・あなたが好きだったんだもの。でも、もういいわ・・」哀れなエポニ-ヌは、マリウスに手をとられて、安らかに息をひきとりました。マリウスは茫然とたたずみ、エポニ-ヌの優しくも悲しい心に熱い涙を流しました。
マリウスは、コゼットの手紙を読みました。
愛するマリウスさま。父は、今日引っ越しをすると申しております。いったん郊外の家にうつり、一週間後にはロンドンについているでしょう。コゼット

マリウスは自分はここで、戦死することをコゼットに知らせたい。手帳を引き裂き、鉛筆で愛するコゼット。わたしは祖国フランスの民衆のために死にます。ついに結婚は出来なかったけれど、私の魂は永久にあなたのそばから離れないでしょう。マリウス
ここの雑用係りの少年に渡して宛先の少年に頼みました。宛先の住所へやってきた、少年は暗がりの中で老人に出会い「フォ-シュルヴァンという家はありませんか?」「それは私の家だが・・・」「そいつは良かった。コゼット嬢という人にこの手紙を渡して下さい。」老人は、ジャンバルジャンでした。家に帰ると、その手紙を読み、そして統べてを悟りました。ここのところ、コゼットが悲し気にしていた訳もわかりました。

ジャンバルジャンは、あの若者を救わなければならないと決心しました。
《わたしの感想》⑨
次回⑩は、ジヤンバルジャンの働きです。そして、ジャベ-ル刑事の最期です。ラストに近づいてきました。
宜しくお願いいたします。
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