
日本では、誰にでも知られている伝統的な昔話です。
《 あらすじ 》
昔昔、あるところに、正直者のじいさんがポチという犬と一緒に暮らしていました。
ポチは、いつもじいさんと一諸に裏山へ猟(りょう)に出かけました。
そしてじいさんが、
「西の谷ハーキハキ」と言うと、キジをくわえてきます。
「東の谷ハーキハキ」と言うと、ウサギをくわえてきます。
「中の谷ハーキハキ」と言うと、イノシシをくわえてきます。
利口なポチのおかげでじいさんは、獲物(えもの)に困ることなく、幸せに暮らしていました。

そんなある日、じいさんはいつものようにポチを連れて裏山に出かけました。
ポチはそこら中を駆(か)け回り、飛びはねたり、じいさんの周りを走ったりしていましたが、大きな木の下に行くと、
「ここ掘(ほ)れワンワン、ここ掘れワンワン」
と吠(ほ)えました。

(なんだろう、この下に何かあるのかな)
じいさんは不思議に思いながら、そこを掘ってみました。
すると、土の中から大判小判がたくさん出てきました。
「こりゃたまげた。神さまからの授かりものじゃ」
じいさんはたいそう喜んで、家に持って帰りました。
それを見た隣(となり)の欲張りなじいさんが、
「どうして急に、そんな金持ちになったんだい」
と聞いてきました。
正直じいさんが利口なポチの話をしてきかせますと、欲張りじいさんは
「それなら、わしにもそのポチという犬ころ、貸してくれ」
と言って、無理やりポチをつれていってしまいました。

ところがポチはいつまでたっても、
「ここ掘れワンワン」
と吠えません。

言うことを聞かせようとすると、欲張りじいさんに噛(か)みついてきました。
「痛い、痛い、何をする、この犬ころ」

欲張りじいさんは怒(おこ)って、持っていた棒でポチをたたき殺して、榎(えのき)の木の根元に埋めてしまいました。
正直じいさんは、ポチがいつまでも帰らないので心配になって、隣に行き、
「うちのポチが帰ってこないのじゃが、どうしただろうか」
と聞きました。
「ああ、あの犬ころなら、言うことを聞かずにわしに噛みついたから、たたき殺して榎の木の根元に埋めてしまったわい」

正直じいさんはびっくりして、榎の木の下へ行きました。して泣きながらポチが成仏するようにお祈りをし、水をかけてやりました。

それからしばらくたったある日、正直じいさんの夢枕(ゆめまくら)にポチが現れ、
「榎の木で臼を作れワンワン、臼を作れワンワン」
と吠えて消えました。

正直じいさんは、翌朝早速、榎の木で臼を作りました。
すると不思議なことに、その臼で一升のもち米を搗(つ)くと二升のもちになり、そのもちをつくと大判小判に変わりました。

これを見た欲張りじいさんは、
「あの榎の木はわしが植えたものじゃ。だからその臼をよこせ」
と言って、無理やり臼を持っていてしまいました。
けれど欲張りじいさんがもち米を入れて搗くと、牛のくそやら、馬のくそが出てくるばかりです。

いくらやっても、大判小判は出てきません。
「なんじゃ、こんなもの」
欲張りじいさんは、しゃくにさわって臼をたたき割って、燃やしてしまいました。
それを知った正直じいさんは、臼の灰をカゴに入れて、泣く泣く家に帰りました。

その途中、桜の枯(か)れた木が並ぶ小道を通りました。
そのとき急に強い風が吹(ふ)き、カゴの中の灰が舞い上がって、枯れ木に降りかかりました。
すると、不思議、不思議、見る間に枯れ木に桜の花が咲き出しました。

驚いた正直じいさんは、ほかの木にも咲かせてみようと枯れ木に登りました。
ちょうどそこへ、殿さまの一行(いっこう)が通りかかりました。
じいさんの姿を見つけた殿さまは、
「枯れ木の上におるのは何者じゃ」と聞きました。
「花咲かじいでございます」
「ほう、花咲かじいとは面白い。ではその枯れ木に花をさかせてみよ」
じいさんがカゴから灰を取り出してパッパッパッパッとあたりにまくと、たちまち、満開の桜の花が咲きました。
「おお、これは見事じゃ、褒美(ほうび)をあたえるぞ」
殿さまはたいそう喜んで、たくさんの褒美をくれました。
これを知った欲張りじいさんは、残っていた臼の灰をカゴに入れ、枯れ木の上で殿さまが通るのを待ちました。しばらくして、殿さまの一行がやってきました。
「枯れ木の上におるのは何者じゃ」
と殿さまが声をかけると、
「日本一の花咲かじいでございます。」
「日本一とな、ではその枯れ木に花を咲かせてみよ」

欲張りじいさんは、カゴから灰をつあんで乱暴に投げつけました。
すると花が咲くどころか、灰は殿さまや家来たちの目や鼻や口に入って、大騒ぎになりました。

「無礼者、ひっとらえろ」
怒った殿さまは、欲張りじいさんを捕(つか)まえて、牢屋(ろうや)に入れてしまいました。
人の真似(まね)ばっかりすると、よいことはないという、昔昔の話でした。
《 わたしの感想 》
【花咲かじいさん】は、善悪の報いを描いた物語です。
正直で優しいおじいさんが主役で、彼の誠実さと善行が最終的には報われます。
一方、欲深い隣人のおじいさんは悪事が露呈し最終的には罰を受け入れる展開です。
人の心の美しさなどを、教えてくれる物語になっています。
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