【兵士のハーモニカ】ジャンニ・ロダ-リを、読んだ感想!

【兵士のハーモニカ】童話です。

大人が読んでも、充分楽しめます。

兵士が手にしたハーモニカには、

人の心を穏やかにし、

争いごとをおさめる不思議な力がありました。

《あらすじ》

昔あるところに一人の兵士がいました。

戦場から家に帰る途中、

兵士は考えごとをしながら歩いていました。

何年もの間、俺は家から遠く離れ、千の危険を潜り抜け、

百の死を目(ま)のあたりにし、

揚げ句のはてに給料までなくしてしまった。

ポケットに穴が開いていたことに気づかなかたばかりにね。

この世に俺より不幸な人間がいるだろうか—。

その時、石柱に腰かけていた老人の姿が目に入りました。

老人は兵士の方に手をさしだし、

「そこの兵士。すまんが金を恵んでくれないか」

それを聞いた兵士はむっとしました。

「泣き面に蜂とはこのことだ。お互いにポケットをひっくり返したら、

老人の方に金がたくさん入ってるにきまってる。賭けていいぞ」

「よし、やってみようじゃないか」

と、老人が応じました。

「願ったりだね。ポケットから出てきた金を、半分ずつ分けることにしよう」

早速、老人が自分のポケットというポケットをひっくり返してみせました。

出てきたのはハーモニカひとつだけ。

それも、指三本持てるほど小さなハーモニカでした。

今度は兵士がズボンのポケットをひっくり返してみせました。

すると、内ポケットから銀貨が一枚、

ぽとりと転げおちたではありませんか。

「こいつはいったい、どこからでてきたんだ?おかしな話だ。

給料をなくしてしまって、もう丸二日も何も食べてないというのに、

ポケットからこんな宝がみつかるなんて…」

二人はつれだって居酒屋に行き、飲んで食べました。

老人はハーモニカで、歌のメロディ-を奏でました。

こうして二人は愉快な時を過ごしました。

ふたたび帰り道を行こうというときになって、兵士は言いました。

「これが食事の残りの金だ。全額じいさんにやろう。俺はこれで満足だよ」

「いや、全額は多すぎる。約束どおり半分ずつだ」

兵士は、夜になる前に家に着くから

不自由することもないと言い

老人は、お礼にハーモニカをあげました。

日暮れも近くなり、兵士はのどがかわいたので、森に入り、

ブラックベリ-を食べて、かわきをいやすことにしました。

ふと見ると、いかつい男が三人、やぶの陰にかくれているではありませんか。

全身くまなく武装しています。

山賊です。

すると、三人のうち一人が恐ろしい目つきで兵士をにらみました。

「あっちにいけ。すっからかんだってことがわかる。

おまえには用がない。消えうせろ」

兵士は小走り、その場から立ち去りました。

乗合馬車がこちらに向かって走ってきました。

もうすぐ、あの馬車は山賊に襲われるに違いない。

でも、俺に何ができるかというんだ?

老人からもらった、ハーモニカで陽気なメロディ-を奏ではじめました。

すると、なんとも不思議なことがおこりました。

先ほどまで、馬車に武器をつきつけ、わめいていた

山賊たちが一体自分たちは何をしていたのだろうと、

お互いの顏を見合わせたのです。

馬車の窓から恐怖に顏をゆがめているご婦人に

道端に咲いているマーガレットの花をプレゼントしたり

男の乗客には、自分の水筒に入った飲み物をさしだしています。

あっけにとられている馭者(ぎょしゃ)には銀貨を一枚渡しました。

そして、帽子をとって皆に深いおじぎをしたのです。

-おかしな山賊もあったものだ-

兵士はハーモニカを吹きつづけながら、思いました。

暗くなるころ、兵士はようやく生まれ故郷の村に着きました。

すると、村はずれの家の前で、二人の男がナイフを持って

大げんかをしていました。

相手を八つ裂(やつざ)きにせんばかりの剣幕です。

兵士が奏でるハーモニカの最初の音階が聞こえると、

けんかをしていた二人の男はナイフを地面に投げ捨て

二人は抱き合って、永遠の友情を近いあったのです。

こうして満ち足りた気分で家に着いたとき

兵士の奥さんと、近所の奥さんが

「若鳥が一羽いなくなった」

と、お互いを盗人呼ばわりしていました。

そのとき兵士がなんの気なしにハーモニカを吹き始めました。

すると、近所の奥さんが、急に砂糖をかけたように甘い声を出しました。

「あら奥さん、ごめんなさい」

二人はこれほど仲の良い友だちはいない、というありさまでした。

このとき、兵士はようやく、どういうことなのか分かりました。

あの老人がくれたハーモニカは、魔法のハーモニカだったのです。

兵士は、このハーモニカは、

≪平和のつむぎ機≫

だと。

兵士は、機会があるたびに、奇跡のハーモニカの威力を試してみました。

さらに奇妙なことを発見しました。

なんとハーモニカは、争いごとをその場でおさめ、対立をなくし、

一度その音色(ねいろ)を聞いた人は、永久に性格が

穏やかになり、何も知らない周囲の人たちを驚かせたのです。

次第に兵士は、この村の人たちが

皆他人を思いやる善良な人間になったら、旅にでようと決めました。

こうして、兵士は行商人になり、周辺の村という村を

ハーモニカを奏で、すべて曲を奏でるまで

村から村をめぐりおえ都会に向かいました。

生まれてはじめて都会にきた兵士は、あまりの大きさに驚きました。

しかも、もの凄い騒音です。

市電はレールの上を猛烈な勢いで通りすぎ、

自動車は追いかけっこをしているかのように

道という道を走り続け赤信号でしばらくとまるだけ。

兵士は、郊外の空き地に荷馬車をおき、どこへ行くというあてもなく、

さまよい歩きました。

そして、時々ハーモニカを口にあて、ためらいがちに曲を奏でました。

なぜか郷愁をそそる物悲しい曲ばかり。

ですが、ハーモニカのかぼそい音色(ねいろ)は、

騒音にかき消されてしまうのでした。

兵士にぶつかりながら歩道を通っていく歩行者たちにさえ、

その音が聞こえているかどうか分かりません。

それでも、時に兵士はたまらなく落ち込みました。

全ての暴力や横暴、意地悪というものを、

町中から、いや

世界中消すのだという素晴らしい計画は、もはや遠い夢、

別世界の夢のように思われたのです。

ところが、夜になるまえに、幸運の女神が兵士に手をさしのべました。

テレビ局の人が自分の企画した番組に

ちょっと変わった人物をさがして町を歩きまわっていたのです。

兵士に声がかかりました。

「テレビでハーモニカを吹いてみたいと思わないかね?」

兵士は、テレビがどのようなものか、よく知りませんでした。

ですが、説明をしてもらい、

それがどういうものなのか分かってくると、兵士の顏は次第に輝きだしました。

自分のハーモニカの音色が、世界のすみずみまで届くことは分かりました。

それが実現すれば、憎しみや敵対心や暴力といったものが、

この世から消えてなくなり、大陸から大陸へ

友情の種がまかれることでしょう。

ハ-モニカのかすかなメロディ-が、まるで平和の雨のように、

地球全体に降りそそぐにちがいありません。

それこそ、またとないチャンスです。

それなのに….突然、ほんの小さな出来事から、

取り返しのつかない災難にみまわれることになろうとは….。

テレビの撮影スタジオに向かうため、兵士は車に乗り込もうとしました。

手には大切な樂器をもって…..。.

ポケットにしまっておくと、給料をなくした時のように、

落としてしまうのではないかと心配だったのです。

テレビ局の担当者も、一諸に乗り込みました。

そんなつもりは全くなかったのですが、兵士にぶつかりました。

その弾みで、握っていた兵士の指がゆるみ、

ハーモニカが落ちました。

そして、車のドアにぶつかり、道路に落ち、排水溝の中に入り、

見えなくなってしまったのです。

兵士は慌てて地面に這いつくばり、排水溝のふたの隙間に手を

突っ込み中を見ようにも、真っ暗で何も見えません。

思わず兵士は、悲痛な叫び声をあげました。

「急いで乗って下さい。地面に這いつくばって何をして

いるんですか」

テレビ局の担当者がわめきたてます。

あの日から、長い年月が過ぎました。

兵士は、今だに不思議な力を持つハ-モニカをさがしています。

恐怖心やネズミと戦いながら、

迷路のように恐ろしく入り組んだ排水溝を、さまよっているのです。

都会の地下をくまなくさがしましたが、無駄でした。

地下のどこかで、小さなハーモニカはさびついていることでしょう。

もはや兵士は年老い、疲れ切っていました。

自分の力でこの世の中をよりよく出来ると知っている者は、

疲れたなどと言う権利はないのです。

あきらめることもできません。

そう、あなたもわたしも…..。

《私の感想》

【兵士のハーモニカ】を

二十代の頃読んだときは、とても衝撃を受けました。

兵士の気持ちが瞬間的に激しく私の心を揺さぶったのを思い出しました。

兵士が手にしたハーモニカには、人の心を穏やかにし、

争いごとをおさめる不思議な力があり、

人を仲直りさせる力があるハーモニカ。

素敵な、童話を作れる

ロダリ-・ジャンニ-

ファンタジ-を.もらいました。

ロダ-リ・ジャンニ

(1920.1980)

イタリアを、代表する児童文学者

詩人・教育者。

イタリア北部に生まれる。

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