
《あらすじ》 ⑥
空には、満月がかかっていました。二人はあてもなく、どこまでもどこまでも歩いて行きました。コゼットは何も聞かずにジヤン・バルジャンの手にぶら下がるようにしながら、懸命に歩いていました。ジヤン・バルジャンと一諸なら大丈夫という、大きな安心感がありました。
何気なく後ろを振り向いたジヤン・バルジャンは胸の中で「しまった!」と叫んだと、同時に全身の血が凍りつくような思いがしました。

男が三人、先頭の背の高い男は、間切れもなくシャヴェール刑事でした。
ジヤン・バルジャンはコゼットを抱えて走りだしました。

ところが、道は袋小路でした。再び、行き止まりの路地に戻り、もう、袋のねずみでした。追っ手の足音は次第に近づいて来ます。こうしたままだと、むざむざ捕まるほかありません。だが、何としても逃げおおせなければならない、逃げるには、そこの、石塀(いしべい)を登らなければなりませんでした。ジヤン・バルジャンは、辛い生活の中で鍛えられた体力と気力、そして軽い身のこなしが、今、ここでものをいったのでした。


ジヤン・バルジャンは、コゼットを抱えたまま、塀の内側の広い庭らしい所に飛びおりました。
塀の外側ではジャヴェ-ル刑事の「出口はないのだから、逃げられっこないのだ!」そう叫び、追っ手の足音が入り乱れていました。しばらく物陰に身をひそめ、ようすを伺うと、塀の外の足音も次第に遠のいていきました。
真夜中の一時か二時頃のはずです。コゼットは寒さに震え信頼しきっている、ジヤン・バルジャンの胸に顏をうずめていました。ふと、コゼットの手を握ってみると、氷のように冷たく、顏は青ざめ体をゆすっても目を開きませんでした。

ジヤン・バルジャンは、何をおいてもコゼットを救わなければなりませんでした。
広い野菜畑の人影のある方に、ジヤン・バルジャンは、近づいていきました。「もしもし、今夜ここへ泊めていただけないだろうか?お礼に百フランさしあげるが・・・」
丁度、月の光に照らされたジヤン・バルジャンの顏をちらりと見て、.老人はびっくりしたように声を出しました。「あなたは、マドレ-ヌ市長さんでは?いったいどこから入りなさったのですか?」
ジヤン・バルジャンの方もびっくりしました。
「わたしは、以前に馬車が倒れてあやういところを助けていただいたフォ-シュルヴァンです。ここは、あなた様にお世話していただいた女子修道院ですよ。」

ジヤン・バルジャンは、自分が世話してやった修道院に偶然にも入りこんだのを悟りました。
「しかし、まあ、どうやってここへ入りなさったのですか?ここは男は一切入れないことになっているのですがね。」
「そういうあんたは男じゃないのかね。」
「腰に鈴をぶら下げてこれは合図のためです。ここは、女ばかりの修道院ですから男の顏を見てはいけないことになっているのですよ。それで、鈴の音がすれば、修道女たちは、わたしを避けるというわけです。」
ジヤン・バルジャンは「お願いしたいことが二つあります。一つはわたしのことは、誰にも話さないこと。もう、一つは、わたしに何も聞かないこと。」
「あなた様は、わたしの命の恩人です。へえ、承知しました。」フォ-シュルヴァンの、番小屋にコゼットを運びコゼットは寒さで、気絶をしていただけなので、暖かい火に温められて元気をとりもどし、ぐっすりと眠り込みました。
ジヤン・バルジャンにとっては、この修道院は、誰の目につく心配もない、この上もなく安全なところではないかと思いました。
フォ-シュルヴァンの方も高い塀に囲まれてどうやって入ってきたのだろうか?と、それも子供を連れてどうやってと、仕切りに首をひねっていました。フォ-シュルヴァンは、修道院の庭番になってから、モントル-ユのことは何一つ知りませんでした。

フォ-シュルヴァンはマドレ-ヌ市長は命の恩人だという事実。自分はマドレ-ヌ氏のために出来るだけのことをしようと心に決めました。
ジヤン・バルジャンを、ここで雇ってもらうからには、ちゃんと門から入った人物でなければならないのでフォ-シュルヴァンは困ってしまいました。
ジヤンバルジャンは、この辺りに潜んだと知られている以上、町中にでることは捕まりにいくようなものです。
フォ-シュルヴァンは、院長から、修道女が亡くなったときに自分の死体は礼拝堂の穴倉に埋めてもらいたいとの遺言でしたが国の法律では外の墓地でなければなりません。たっての願いを叶えてやりたいと院長がフォ-シュルヴァンに頼みました。

修道女が、とうとう亡くなりました。フォ-シュルヴァンは、それを、引き受ける代わりに自分の弟を庭番にしてもらい、その子どもを寄宿生にしていただくように頼み込んで、承知していただいたのです。
フォ-シュルヴァンは「問題は、お棺の中が、からっぽでは墓掘り人が担ぎ出すときに、直ぐにばれてしまいます。」
「わたしが、中に入って外に出れば二つの問題が一諸に解決するじゃないか。」ジャンバルジャンは、笑って言いました。
お棺に釘を打つのはフォ-シュルヴァンなので「(きり)で目立たないように小さな穴をあけて、後は一か八かで神様にお任せする以外に方法はないんだよ。」ジャンバルジャンは、そう言いましたが、「問題は墓に運びこまれてからのことだ。」
「その点なら心配ありません。墓掘りの爺さんとは知り合いだし大変な酒飲みですから居酒屋に誘ってうんと酔っぱらしてしまいます。墓地に出入りするのに必要な鑑札をとりあげてしまいわたし一人で墓地に引帰ってあなたを穴からだし墓地から出ればいいのです。」
ジヤン・バルジャンは、「なるほど、それで決まった。これで事はうまくいくよ。」ジヤン・バルジャンは、自信を込めて言いました。

あくる日、太陽が西に傾きかけた頃、修道院を出た葬列は、しづしづと墓地に向かって進んで行きました。
見慣れない若い男が棺のそばにつき(くわとつるはし)をかついでいました。けげんな顏でフォ-シュルヴァン爺さんは。、「メティンヌ爺さんが墓掘り人ではないかね。」「あの爺さんは死んだよ。それで、この俺が後がまになったというわけさ。」
思いがけない話にフォ-シュルヴァンは青くなり、なんとかしなければならない・・・。「メティンヌ爺さんの弔いに、お祈りのすきにいっぱいひっかけにいかないかね。」「いや、仕事が先だよ。俺は酒は飲まないんだよ。俺には七人の子どもがいるんだ。酒どころじゃないんだよ。」
フォ-シュルヴァンは途方にくれました。どうしたら「いいのだろう?額には脂汗がにじんできました。目指す墓につき、墓穴はすでに掘られていました。
その中に棺が降ろされ司祭が祈りの言葉を唱え、少年合唱団が讃美歌を歌いました。人々は手に土を救い、棺の上にぱらぱらと振りかけました。式が終わると、一行は引き揚げました。
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フォ-シュルヴァン爺さんは、もう必死で、「な、待ってくれ。金はわしが、払うから、まず、いっぱいやってからにしょう。」「くどいなあ。爺さん。俺はまず仕事をかたずけるよ。」若い男は、もう爺さんに構わず土くれを墓穴の中に放り込みはじめました。
困り果てたフォ-シュルヴァンは、今にも卒倒しそうでした。若い男は上体を、かがめて土を救い穴の中に放りこんでいました。このとき若い男の上着のポケットから白い札が覗くのにフォ-シュルヴァン気がつきました。フォ-シュルヴァンは、その札を抜き取ってしまいました。
「ところで、お前さんもうじき門限だが札は持ってきたんだろうね。」「もちろん、持ってきたよ。」若い男は上着のポケットに手を入れ、慌ててズボンのポケットをさぐりました。「おや、ないぞ!おかしいな。ちゃんと持ってきたはずなのに!」
「なければ、罰金十五フランだよ。」フォ-シュルヴァンは、脅かすように言いました。若い男は青くなり「どうすりゃいいんだ、爺さん?何しろ、こんなに穴がふかいんだから。」「お前さんうちはどこだい。」「ここから、十五分ばかりかかるところだが・・・」「十五分くらいかかるなら、これから大急ぎで家へ行って、探してそれまで、ここでわしが番をしているから。」それでは、宜しく頼むと言って若い墓掘り人は駆け出して行きました。
その姿が見えなくなると、フォ-シュルヴァンは墓穴の中に飛び降り、(のみと金槌)で棺のふたをこじ開けました。横たわったジヤン・バルジャンの姿は目を閉じており、ぐったりしていました。
「死んでいなさる!助けてあげるつもりが、こんなことになってしまった。」フォ-シュルヴァン爺さんはその場に泣き叫びながら髪をかきむしりました。死んだと思ったジヤン・バルジャンは、急に目を開きフォ-シュルヴァンを見ました。「ああ、どうやら、眠ってしまったらしい。何だか寒い。」フォ-シュルヴァンは、大喜びで用意してきた酒の瓶をポケットの中から出し「それなら、これを飲んで温まってくださいよ。」すっかり元気をとりもどしたジヤン・バルジャンはフォ-シュルヴァンと、

からになった棺に土をかぶせ二人は、すっかり暗くなった墓地を立去りました。
ジヤン・バルジャンは若い男からかすめとった札でゆうゆうと門を通りました。
フォ-シュルヴァンは、途中若い男の家を捜しだし「札は、墓の側にあった。」と言って返しました。
それから一時間ほどした頃、フォ-シュルヴァン、ジヤン・バルジャン、コゼット、三人はは門を入りました。ジヤン・バルジャンは、フォ-シュルヴァンの弟ということにして女子修道院の庭番の仕事を手伝うことになりました。

コゼットも修道院の寄宿生になり、そこで女性としての教育をうけられるようになりました。
一日に一時間は「お父さん」(ジヤン・バルジャン)を尋ねることも許されました。ジヤン・バルジャンとコゼットに、穏やかで楽しい日々が再び戻ってきました。コゼットは、明るく、健康で、賢い少女として育っていきました。
ジヤン・バルジャンの胸には、やさしく、穏やかで、清らかな心がしみ込んでいきました。こうして何年かが過ぎ去りました。

《わたしの感想》 ⑥
ジヤンバルジャンは大変な思いと、危険と分かりながらも乗り越えました。
ジヤンバルジャンは、以前に馬車が倒れて危ういところを助けたフォ-シュルヴァンに出会いました。フォ-シュルヴァンは修道院で庭番をしているので、ジヤンバルジャンを弟として庭番で働き、コゼットは女子修道院の寄宿生になることが出来ました。
ジャンバルジャンは、心の内では、いつもミリエル司教の感謝の気持ちを忘れずにお祈りを奉げていたことで今があるような気がします。
コゼットは教育も受け明るい、利発な少女として成長していきます。ジヤンバルジャンは今は、心穏やかでコゼットと楽し日々を送っています。
⑦は、マリウスとの出会いです。次回も宜しくお願いいたします。
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